810 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 04:14:01 ID:???
###できたぶんだけ。けっこう長引きそうだから長い目でみてください。
0.
未来という言葉がある。
私にとって、未来とは私がこれから生きていく際限のない時間の流れ、そのすべてを表すものだとなんとなく思っていた。
だから、未来というのはつかみどころのない、あまりに漠然とした言葉だった。
明日の自分や一か月後の自分が何をしているかだって分からないのに、十年後や二十年後の自分の姿なんて想像もつかない。
……仕事は何をしているのだろう、恋人はいるのだろうか。ひょっとしたら子供がいたりするのかな。元気にしているのかな。未来のあたしは笑っている?それとも泣いている?
気付けば十四年というけして短くない年月を消費してきた私でも、これから生きていくであろう何十年は永遠とさしてかわらない。とてもじゃないけれど、私の想像の及ぶものではなかった。
だから、私と、私をふくむ全ての人たちの「未来」に消費期限がついたあの日。私は人並みに驚き、悲しみながらも同時にかすかな安堵を覚えもしたのだ。
だって、とっくに過去の出来事になってしまったかつての「未来」はことごとく私を裏切り続けてきたのだ。もう自身の「未来」を想像して、期待して、苦しむことは二度とない。
面白くもなんともない学校は今日で終わり。明日からは楽しい夏休みだ。
最後の夏休みがはじまる。
814 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/19(土) 04:21:10 ID:???
結局は、こっちのほうがよかったのかもしれない。私たちははじめてお互いにじっくりお話をする機会を得ることができたのだから。
私はいままで無駄にしてしまったチャンスを取りかえすように、彼を質問攻めにしてやった。学校のこと、友達のこと、そして夏休みの予定のこと。
バカシンジは今日の私のあまりの変わり具合に驚いていたようだけれど、それでも、私の質問にはなんでも答えてくれた。
今のところは夏休みの予定はまだ何も決まっていないよ、だけど仲のいい友達とどこかに遊びにでもいけたらいいなあ。シンジはそう言って、はにかみながら笑った。
仲のいい友達というのは、鈴原や相田のことだろう。人づきあいはあまり得意じゃないらしいシンジも、あの二人とは心の底から打ち解けているみたい。
鈴原も相田も救いようがないくらいバカだけど、私が知らないシンジの姿をいくつも知っているという点では、本当にうらやましい。私なんて、そんな人は一人もいないのに。
シンジと一緒に過ごすことができたら、楽しいだろうな。
もし、私がずかずかとシンジの中に入り込んでいったら、彼はどんな顔をするだろう。迷惑に感じて、私を追い出したりしないかな。それが、臆病な私にとってはどうしようもなく怖い。
でも、ここに確かなことがひとつ。
私たちに残された時間は、あと五十日とすこし。これから、どういう風に生きたとしても私たちは九月の始業式を迎えることはできない。
どういう道をたどっても、その先には不可避の終わりしかないという事実は、私に前向きに生きるすこしだけの勇気を与えてくれた。
私が残る時間をどういう風に生きればいいのか、どの選択が正解で、どの選択が不正解なのか、それは私にもわからない。
でも、いまの私が何を望んでいるのか、それを問われたら答えは一つだ。
学校が見えてきた。
#俺に短編の才能はないようだ。でも落ち着いてスレが過疎るのをみてはいられなかった
#時間はかかるかもしれんががんばって完結させます
819 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:01:09 ID:???
2.
私たちの第一中学校は第三新東京市の南東の住宅街の中にある。
いや、正確にいえば第一中学校だった建物、というべきか。第一中学校は今年のはじめに閉校になっていた。
今は、一人の教師だけが学校に残ってわずかに残った生徒たちを相手に勉強を教えている。
だから、学校に行きたくなければ行かなくてもいいのだ。学校なんか行かずに、好きなことをして遊べばいい。
なのに、どうして私は以前とおなじようにその場所を学校と呼び、制服姿でそこに通っているのだろう。学校なんて面白くもなんともないんじゃなかったっけ。
そこにバカシンジとヒカリが通っているからなのか、それとも学校に行かないとどこか落ち着かないのか。
……実のところ、自分でもよくわからない。
学校についたのは、一時間目がはじまってしばらくたったくらいの時間だった。昇降口でうわばきをはきかえて、シンジと一緒に人気のない廊下を抜ける。
校内は恐ろしいくらいに静まり返っていた。私とバカシンジの足音だけがリノリウムの床に恐ろしいくらい反響している。
通り過ぎる教室はどれもからっぽで、椅子と机だけがものも言わずに整然と並んでいた。
まるで学校中が死に絶えて、私と隣にいる彼だけが世界に残った最後の人間になってしまったみたいな錯覚を覚える。
今学期だけでも数えきれないくらい目にした光景だけれど、やっぱりいい気分はしない。
階段を一段、もう一段と昇っていくと、静寂を破って、遠くから生徒たちの明るいざわめきが聞こえてきた。それはこの世界ではとっくの昔に失われてしまったはずのものなのに。
私たちの2年A組。第一中学校に残った最後のひとクラス。
いつもこの瞬間だけはなぜかほっとする。どうしてだろう、ひょっとして、バカシンジも同じ気持ちなのかな。
「いいわねバカシンジ、私たちは遅刻しそうになって全力で走ってきたのよ。けしてゆっくり歩いてきました、なんて雰囲気だしちゃだめよ」
「あ、うん」シンジはうなずいた。「じゃあいくわよ、せーの」
私とシンジは廊下を全力でダッシュして、後ろのドアから教室に飛び込んだ。私が先、バカシンジが後。
「すみません先生。おくれてしまって……惣流の自転車がパンクしてて、歩いてきて……」
820 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:03:15 ID:???
「おお、きたわねお二人さん!待っていたわよー」
ミサト先生は、私たちふたりを見てにいっと笑った。「自転車がパンクう?怪しいなあー。いちゃいちゃしてたら遅れちゃったのね、まあ許してあげるわ」
その言葉につられてクラスのみんながどうっと笑った。「まさか碇と惣流がくっつくなんて世も末やな!」鈴原が的確なチャチャを入れたせいで笑いが大きくなった。たぶんいま、私は真っ赤になっていると思う。
「とっトウジ、何いってんだよ。違うったら!」シンジが必死に否定する。「だいたい惣流はただの友達だって……」
「ほんとにかい?毎日皆勤で遅刻もしたことがなかったお前が今日だけは遅刻したんだぞ?これは何かあると勘繰るのは当然じゃないか」と相田が口を挟んだ。
「違うっていってんでしょこの馬鹿!あんたらあとで顔貸しなさい!」「こっわい女、こんなんとつきあえるシンジはきっと聖人やな」
「ちょっと、馬鹿鈴原!いいかげん静かにしなさい!」委員長のヒカリががたんと席を立って鈴原を一喝した。クラスが急に静かになる。「もう、ミサト先生も変なことで二人をからかわないでください!」
「ごめーん洞木さん、私こういう話題大好きでついつい……」ミサト先生はえへへと苦笑いしながら私たちにぺこんと頭をさげた。
ナイスよ、ヒカリ。私は心の中でガッツポーズをしながら自分の席に向かった。まったく、どちらが先生なのかわからない。
クラスを束ねる才能はヒカリのほうが断然上だ。ヒカリのほうが先生の才能あるんじゃないかしら。
「じゃ、洞木さん。お願いね」「はい、先生」
「きりーつ!」ヒカリが大声を出した。クラスの全員がすっくと席を立つ。
朝礼なんて私たちがいないうちにとっくに終わってるものと思っていたから、びっくりした。
「え、僕たちが来るのを待っていたんですか?」と、シンジが不思議そうにたずねた。
「そうやぞ碇、いつまでも待たせよって」と鈴原。
「あら、だって一学期のおしまいくらいみんな揃ってから一日をはじめたいじゃない?」ミサトはそんなの当たり前のことじゃない、とでもいうふうな顔だ。
クラスのみんなも、そうだそうだ、というふうに首を降る。
最後くらいみんな揃って……か。
なんてしらじらしい言葉。まあ、悪くはない響きだとは思うけれど。
「礼!……着席!」
821 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:06:02 ID:???
3.
葛城ミサトは私たちの担任だ。容姿はまあ、そこそこ。でも性格はずぼらでいいかげんだ。でもなぜか男子には大人気だから、私たち女子はあまりおもしろくない。
男子ってなんであんなに馬鹿なんだろう。あんたのことを言っているの、わかってるんでしょうね……バカシンジ。
ともかく、男子に人気があることだけが取り柄でずぼらでいいかげんな葛城ミサトは、第一中学校に残った最後の教師のひとりだ。
彼女は私たち勉強を教えている。学校という場所じたいが存在意義をなくしたこの世界で。自分のやっていることには意味がないと知りながら。
私は彼女が嫌いだ。
「おはよう!2年A組のみなさん」ミサト先生はクラスじゅうをみまわしてにこりとわらった「空席なし、出席確認の必要はないわね」
「さて、いきなりだけど……今日はみなさんに重大なお知らせがあります。
嬉しいお知らせと悲しいお知らせがひとつずつ。さあ、どちらを先に聞きたい?じゃあ、惣流さん!起立!」
いきなり自分の名前を呼ばれた私は、びくっとして立ち上がった。
嬉しいお知らせと悲しいお知らせ?いまの私たちに嬉しいお知らせなんてものがあることのほうが驚きだけれど。
「え、あ、じゃあ嬉しいほうを」
「嬉しいお知らせは……明日から楽しい夏休みです。学校は今日でおしまい、みんな好きなことをして遊んでいいのよ。パーっと!」
クラスの中はしいんと静まり返ったままだった。私も、バカシンジも、ヒカリも鈴原も相田も、うつむいたまま、一言もしゃべらない。
誰も口には出さないけれど、みんなこのことには気づいている。再び、私たちが全員そろってこの教室に集まることはおそらくない。
この教室にいるうちの何人かとは、もう顔を合わせることすらないかもしれない。
「そうよね……そりゃそうよね」ミサト先生はバツの悪そうな顔をした。
「だから……いくつかイベントを企画してみたわ。遠足でしょう、臨海学校でしょう、ほかにもいっぱい考えているわ
この夏休みは思い出に残るわよ!サービス、サービス!」
この言葉を待っていたように、みんながわあっと歓声をあげた。バカシンジも笑った。私もつられてちょっと笑った。
822 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:10:39 ID:???
「さすがミサトセンセや!」鈴原が叫ぶ。「わしらのことをようわかっとる!」
「もちろん補習もあるわよ。鈴原、あんた期末テストの数学を空白で出したでしょう。強制参加!」
「そんなあー」といって頭をかかえた鈴原はなぜか笑っていた。気持ち悪い。どーせミサトセンセとの個別授業やとかそんなやーらしいこと考えてるんでしょう。
あ、ヒカリが面白くなさそうに鈴原を睨んでる。
「ちなみに補習は鈴原以外は自由参加よ。来たい人は来ていいわ」
また、みんなが歓声をあげる。ひょっとして、みんな行くんじゃないかと思う。
823 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:12:43 ID:???
「で、次は悲しいほうのお知らせ……ま、これはもうお約束ね」
ミサト先生は教壇の上に大量の紙の束をどすんと置いた。「宿題があります。提出は新学期の九月一日!」
宿題、という言葉にみんながざわめいた。私も、えっ、という声が口から出かかった。
なぜなら、私たちが新学期を迎えることは絶対にないはずだからだ。
「あら、みんなどうしたの?」ミサト先生は、私なにかおかしなことをいったかしらという風な顔をした。
「ひょっとして、八月三十一日に太陽がバクハツするから宿題なんて意味がないなんて思っているんじゃないでしょうね」
「笑止千万!」ミサト先生は教壇をばん、と叩いた。クラスが静まり返る。ミサト先生は諭すように話し出した。
「今から十五年前、突然の太陽の異常活動と、それにともなう気候の激変で人類の半分が死に絶えたわ。
みんなも知っていると思うけれど、今度はもっともっと大きなものが来るそうです。それで、今度こそ地球は完全に焼け野原になって、地上にいる人は一人残らず死んでしまう」
そうなのだ。八月三十一日に太陽が新星になるのはほぼ確実だ。運が悪いと地球は粉々になるし、運が良くても強力な熱線と放射線で地上は完全に消毒されてしまうと聞いている。
人類の絶滅を防ぐため、ここ第三新東京を含む世界数か所に巨大な地底都市が建設されたけれど、それでも人類が生き延びられるかどうかはかなり微妙らしい。
ちなみに、その地底都市に避難する数万人に、私たちは含まれてはいない。
それらの都市はすでに地上と断絶しているため、行くこともできない。
「少なくとも、そう大人たちは信じている。あと数十日しか生きられない、それまでにやることをやっておこう、後悔のないように生きようって。
でも、あなたがたはまだ子供よ。子供には未来を夢見る権利がある。あなたがたに、後先短い老人みたいな考えは、まだ似合わないわ。
最後の最後まで前向きに生きるのよ。どんなに苦しくても。未来が来ると信じて
奇跡が起こって、もし九月一日が来たら、またこの教室で会いましょう。
そのとき、もし宿題をやってきてない人が一人でもいたら、私、許さないからね。」
私は悟った。ああ、やっぱり、私は彼女が好きにはなれない。
「宿題は大サービスしてひとつだけ。作文よ。テーマは『未来のわたし』」
824 名前: ◆Fv2.a53w1k [sage] 投稿日:2010/06/21(月) 07:13:37 ID:???
#とりあえず書けたぶんだけ。
#次は一週間後?くらいです
最終更新:2011年01月26日 19:52