263 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 本日のレス 投稿日:2008/01/21(月) 00:56:47 ???
陶器の皿がひっくり返され、スープがぶちまけられたテーブルを、ミサトとシンジは何を言うともなく眺めていた。
いつからこんなふうになったのかしら。
ミサトはぼんやりと、アスカの、悪くないといいながらシンジの料理に箸を動かしていた笑顔を思い浮かべようとした。それを見ながら控えめに細められた少年の優しい目も。
この家にも、そんな穏やかな時間があった。確かに、あったのだけれども――思い出すのにかかった時間が、悲しかった。
やがてシンジの指が地に落ちた竜田揚げを摘み、割れた食器の破片を拾いはじめた。ミサトは無言で掃除機のコンセントを繋いだ。
耳障りな機械音を、ドアの向こうでアスカはどんな様子で聞いているのだろうか。俯いたまま布巾でテーブルを拭くシンジにミサトはすまないわねと言った。
すまないわね。……本当に。
深夜、リビングで書類を並べていたミサトの耳に、ドアが開く音が聞こえた。振り向くと、そこにいたのはアスカだった。
黙って冷蔵庫を開け、牛乳を取出しコップにつぐ姿をミサトは見つめた。何か話し掛けないと。白い喉がこくこくと動く。
口を開きかけたミサトを遮るような大きな音をたてて、アスカがコップをテーブルに置いた。いつも表情豊かな青い目は前髪に隠れている。
「カーペット、汚れたわね」
脈絡のない言葉に面食らいながら、ええ、そうねと答えると、アスカは所在なさげに顔を逸らしながら、続けた。
「新しいの、買ったほうがいいわよね」
素直に成れない少女の、不器用な言葉だった。いささか分かりにくかったけれども、ミサトにはそれで十分だった。
「なら、こんど買いに行かない?シンちゃんも一緒にさ」
アスカははっと顔をあげた。一人の少年を思わせる、不安げな目が揺れていた。
「……しかたないわね、あんた達ってセンス悪いものね。この前もへんなスリッパ買ってきて。
まったく、あたしがいないと全然ダメなんだから」
矢継ぎ早に飛び出す久しぶりの元気な言葉に、ミサトは、優しく、少しからかうように笑った。
最終更新:2008年01月21日 17:52