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38 名前: ◆IE6Fz3VBJU 投稿日:2008/01/04(金) 01:30:10 ???


ヒカリは台所で夕食を作っているところだった。何をするにも全力投球のヒカリだが、食事は特に、全身全霊、愛情を込めて作る。
しかし、あの日の知らせ以来、何をするにも心を込めることができないでいた。
――ヒカリはふと背後に誰かの気配を感じて、振り返った。家族ではなかった。それはヒカリが一番会いたい人の姿だった。
「鈴原……!」
ヒカリは我が目を疑った。死んだはずのトウジがそこに立っていたからだ。
「やっぱり生きてたんだね……!」
そうだよね、とヒカリは言った。トウジが死ぬわけないもんね。きっとネルフの都合で死んだことにされていたんだよね。
ヒカリは迷いに迷った末に、一世一代の勇気を振り絞って、トウジに抱きついた。
ちらとトウジの顔を窺うが、別に迷惑そうな顔はしていない。逆にちょっと恥ずかしそうに笑っていた。トウジの笑顔を見て、ヒカリの目から涙がこぼれはじめた。
「あのね、私……」涙を拭って言う。「私……鈴原にお弁当……一生懸命……」
急に我に返った。「バカね、私。お弁当のことなんか、どうでもいいよね」
――そんなことあらへんよ。ワイはごっつ食うけど、大丈夫か?
「大丈夫よ。たくさん作るから」
ヒカリは泣き顔から笑顔になって、鈴原はそういうとこ全然変わってないね、と言おうとした。しかし、
「あれ?」
急にトウジの身長が高くなった。いや、違う。自分が低くなったのだ。
膝をついてなんかないのにどうしてだろう? こんな大事なときに。ヒカリは焦って下を見た。
自分の膝から下が溶けて無くなっていた。
「あれ?」とヒカリは呟いた。何だろう、これ。
「鈴原、私……」私、どうなっちゃうんだろう。せっかく会えたのに。
――大丈夫や。
ヒカリはトウジの顔を見上げた。トウジは優しい顔をしていた。ヒカリの一番好きな表情だった。
――委員長、なんも心配せんでええ。ワイがおるから。
「そっか。鈴原が言うんなら、そうだよね。よかった……」
口にする間にも、ヒカリの背はどんどん低くなっていく。
「あのね。一つだけ、お願いがあるんだけど。委員長じゃなくて、ヒカリって呼んでくれない?」
――ああ、ええよ。お安い御用や、ヒカリ。

「ありがとう!」
ヒカリは笑った。

次の瞬間、ヒカリはLCLになっていた。



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最終更新:2008年01月17日 22:47