327 名前: ◆IE6Fz3VBJU 投稿日:2008/01/11(金) 00:52:29 ???
少年は海辺でガラスの瓶を拾った。中に紙が入っている。これは――メッセージ・ボトルだ。
話には聞いたことがあるが、実際に見るのはこれがはじめてだった。
少年は胸をときめかせながら瓶の蓋を開けた。
母さんのことは本当に悪かったと思っている。議論の余地なく、私が悪い。
私が夫としても父親としても失格であることは、自分でもよく分かっている。
何せお前の入学式や卒業式や、何より母さんの死に目にも立ち会わなかった男だ。
研究が日の目を見ず、半ば狂人扱いされていた中、何とかやってこれたのも、母さんがいてこそだった。
その母さんを見捨てたようにお前が思っても仕方ない。お前にどう思われても私には何も言う資格はない。
しかし、私の研究は、人類の歴史を変える――いや、そんな言葉では到底表せないものなのだ。
お前を南極に連れてきたのは、せめて、私の研究の成果を見てもらいたかったからだ。
無駄に犠牲になったのではないということを、知ってもらいたかったからだ。
言い訳だとお前は言うだろう。
そうだ。これは家庭人失格の男の、情けない繰り言だ。だから上に書いたことは忘れてくれ。
ただ、これだけは分かって欲しい。
私は、母さんもお前も、心から愛している。
P.S
この調査から帰ったらきっと時間を作る。二人でどこか旅行に行こう。
少年は肩を落とした。外国の文字で、何が書いてあるのか全く分からない。
もちろん、手紙を書いた人物が、手紙は書き上げたものの、手渡す決心がつかず、
かといって破り捨てる気にもなれず、結局瓶に入れて海に投げ入れたことなど、知る由もない。
少年は暗号を解読するような気分で手紙の文字を見つめた。
複雑そうな模様は、きっとカンジだろう。ということは、中国か日本?
誰か分かる人に翻訳してもらおうかと少年は考えたが、結局、海へ帰すことにした。
これは、自分が受け取るべき運命ではないのだ。運が良ければいずれ読むべき人のもとへ届くだろう。
少年は、手紙をしまい、蓋を締めると、思いきり瓶を投げた。
そして、波間に消えていくまで、じっと見守っていた。
最終更新:2008年01月18日 00:03