386 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2008/01/12(土) 02:36:19 ???
ミサトは鉛筆を手に悶絶している。
柄にも無く、短編小説を書いているのだ。それも機械の手を借りず、
原稿用紙に鉛筆で、一文字一文字、自分の言葉で書き起こしている。
人類補完計画の発動から約半年。本人にも訳が分からないまま、
「葛城ミサト」という個体生命として、この世界に戻って約3ヶ月。
知った顔は、弟妹のような存在のシンジとアスカだけ。
「他に誰がいて誰がいないのか」さえ知れない、荒廃した「その後」の世界。
ある意味、原始に戻った様な、ゆったりとした時間の流れの中で、
他に為せる事も無く、有り余る時間を一人で潰す術として、執筆を思い立ったのだ。
元来、活動的な性格のミサトは、一所に凝り固まって原稿用紙と対峙するような事は
性に合っていない。それでも、こうして真摯に取り組んでいる様からは、
自らも死に直面した事で、「自分の何かを後に残す」事に目覚めたと窺える。
そう、「父」や「恋人」が、彼女に何かを遺していったように。
「ミ~サトっ!ほら、書いてたアレ、出来上がったの?」
こちらも退屈を持て余しているアスカが、原稿の完成を楽しみにしている。
「ん~・・・・・・まあ、ね。」
自分に然程の文才が備わっていない事を悟っているミサトは、アスカに渋々と原稿を渡す。
「何これ?・・・・・・これが小説と言えるの?」
「・・・・・・言えないわね・・・・・・。」
「これで大学を卒業出来たなんて、まさに奇跡ね。」
辛口の評論家を前に、自分が学生時に起こした奇跡に初めて気付くミサトであった。
「でも、処女作としては及第点なのかな。あとはもっと感受性を磨かなくちゃ、ね。」
ミサトは、その「感受性」の最も豊かな年頃に、失語症に陥っている。
丁度、今のアスカの年頃。その時期の感性を失った事は、ミサトにとって悔いではあるが、
この大人気ない悪態をつく妹分が、自分と同じ道を辿らず自我を取り戻せた事は、嬉しく思っている。
「この子達を立派な大人にする事、それも自分が残せるものの一つ」ミサトはそう感じている。
最終更新:2008年01月18日 08:49