21 名前:名無しが氏んでも代わりはいるもの 投稿日:2008/01/15(火) 03:30:04 3JVhUDGR
窓の向こうに広がる青い空。遥か彼方では一筋の雲が地平線目指しゆっくりと流れていく。吹き込む風に煽られ、机の角とじゃれているカーテンをぼんやり眺めながら私は溜め息を吐いた。
私はどうしてここにいるのだろう。何度ぶつけたかわからない疑問を自分に投げ掛ける。
役目を終え無に還るはずだった私。二人きりの世界に紅い海から一人、また一人と生命が戻り、彼の泣き顔が笑顔に変わったのを見届け、私は世界に別れを告げた。
後悔も未練もない。あったのは彼の願いを叶えられたという喜びだけで、肉体と引き換えに彼を守った時以上に私の胸は満たされていた。でも――。
校庭の隅でざわめいていた木々が落ち着きを取り戻していく。それにつれ、あれだけはしゃいでいたカーテンも無気力に垂れ下がってしまった。仕方なく私は黒板に視線を向ける。
教卓近くで友達と談笑する彼の姿が私の目に映った。楽しそうな彼の笑顔。あの時も彼は笑っていた気がする。
――気が付くと私は白い天井を見上げていた。耳障りな電子音と微かな薬品の臭いが、朦朧としていた意識を現実に引き戻していく。
私は生きている。その事実を機械的に処理するだけで特に感情は抱かなかった。ただ緊急事態には上司の判断を仰がねばならない。
管制塔に向かおうと身体を起こしたところで私は彼の姿を見付けた。ベッド脇の椅子に腰掛け、驚いたように目を丸くした彼。
「……何か用?」
そんな彼に私はそっけない言葉を残して病室の扉に向かう。彼は俯いているだけで特に反応を見せない。扉が開く音と重なるようにして、ようやく小さな呟きが耳に届いた。
「……綾波、良かった」
その言葉に導かれるようにして振り返ると、彼は泣きながら笑っていた。
半分開いた窓から勢いよく風が吹き込んでくる。煽られたカーテンが視界から消えた頃には、私の視線の先に彼の姿はもうなかった。私の口から溜め息が雫れる。さっきより深かったのは多分気のせいだ。
「……碇君」
何となく彼の名前を呟いてみる。何故かわからないがまた溜め息が溢れそうな気がして、私は空を仰いだ。窓の向こうには先程と変わらず青い空が広がっている。
――私はどうしてここにいるのだろう。
もう一度同じ疑問を自分に投げ掛け、私は小さく微笑んだ。
最終更新:2008年01月18日 09:34