死者の日
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題名:死者の日
原題:Dia De Los Muertos (1997)
作者:Kent Harrington
訳者:田村義進
発行:扶桑社 2001.09.30 初版
価格:\1,524
『
転落の道標』を読んだときには、エルロイとトンプスンの中間地点に立つ作家と感じていた
ケント・ハリントン。しかし本作を読んでみてこうも印象が違うと、まだまだこの作家の才能は出尽くしてはいないのだとの期待感が募ってくる。本書はよりエルロイに近い熱気を感じさせる作品。
舞台はメキシコのティファナ。破滅への秒読みを開始した麻薬取締官の
24時間が始まる。最悪に最悪を重ねるなかで、ピュアな純愛を持ち続ける男。よりリアルで偶像にはなり切れない、弱さだらけの女。何とも距離感がありながら、情念と人生が絡まり合う関り方だ。皮肉で過酷で人生そものの男女関係だ。これぞファム・ファタールだ。
原題は11月2日ティファナで行われる死者の日の祭りのことを表わしている。祭りの夜に向けて街中の熱気がむんむんと高まってゆく。デング熱に浮かされ、死を友にしているような主人公は、掌からこぼれてゆく砂のような脆い希望に縋り付いて、濃密な時間にすべてを賭けてゆく。しかし賽の目は運命のなるようにしか転がってゆかない。
どちらかと言えばエルロイの小説によく出てくる主人公みたいだ。何もかも銃撃で蹴りをつけようとしてしまう。しかし善と悪の国境を行き来してしまう主人公の弱さ、優しさ、モラル、情動。こうしたすべてが奇怪で理不尽であり、熱にうかされた意識を通して、さらに燃え上がってゆく街だけが見える。狂気と冷静の彼岸を渡来する彼の脳味噌は吹き飛びそうだ。
登場人物各人の愛情がすれ違い、それぞれに孤独な死を迎えてゆく。誰もが誰かを愛し、組んでおり、誰もが誰かに裏切られ破滅に向かってゆく。すべてがエネルギッシュ。ひとたびページをめくった途端に火と血の祭りが始まる。広場に下り立つ宿命の女。何という名シーンであることか。
国境の砂漠を命知らずに走ってきた男の半年に立ちはだかる一日。それが死者の日だった。おびただしい死者と禿げ鷹の群れが印象深い作品である。原色のメキシコ。夕陽に染まる赤い血。解説ではゴダールに撮らせたかった作品と関口苑生が書いている。ぼくとしては、この血しぶきと情念の炸裂の数々を思うと、やはりペキンパに獲らせたかった気がする。激しいバイオレンスで綴られ、歪んだ疾走感をもたらしてくれる、狂熱のノワール!
(2003.02.04)
最終更新:2007年07月14日 22:53