ストリート・キッズ
題名:ストリート・キッズ<再読>
原題:A Cool Bleeze On The Underground (1991)
著者:
ドン・ウィンズロウ Don Winslow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 1993.11.19 初版 2014.2.28 28版
価格:¥1,100
油断していたら、本書のオンライン読書会が目の前に迫っていた。2026/9/25夜8時スタートに。前日に気づいただけまだ良かった。遮二無二読む。<遮二無二>という言葉自体、書評で使ったことはないと思う。でもまあウィンズロウ作品なら<遮二無二読む>というは、まあ普通だと思う。
何を言おうか準備のできてないままに読書会を迎え、本書について語る。ドン・ウィンズロウの全著作(但し日本語翻訳済みのものに限る)を読破しているのはどうやらぼく1人であるらしく、他の参加者の方々は昔この作品を読んだ、あるいは読書会に向けて初めて読んだ、あるいは読書会に向けて再度読んだ、という方で構成されているようだった。ぼくは最後の奴であり、さすがにすっかり忘れていた内容の本書をけっこう新鮮な想い出再読して、それなりの感想を発言させて頂いた。
何しろ本書は1993年邦訳作品、原書は1991年にウィンズロウの処女作として発行されたもの。ぼく自身で言えば30代半ばの作品ということだ。自分史読書記録を紐解くと、最初にウィンズロウ作品を読み始めた順番が『
ボビーZの気怠く優雅な人生』『
高く孤独な道を行け』『ストリート・キッズ』『
仏陀の鏡への道』『
歓喜の島』で1999年9月~11月の間に集中している。とりあえずウィンズロウにのめり始めた兆候は表れているし、そうであった記憶は今もある。ぼくの年齢は37歳であった。
本書を再読して思うのは、今読んでも、基本的には古さを感じさせないなということ。そしてハードボイルド特有のシニカルなユーモアを交えた文体は、まさに先の開花を十分に予測させて余りあるものであったこと。溢れ出る創作への要求と物語る能力の高さについては最初から他の追随を許さぬ個性に満ちていたことなどを、この時点で見せてくれているというものだった。
スマホはもちろんのことパソコンだって一般家庭に満足に揃っていない時代に、豊かな表現と絶妙な語り口で、幾層もの仕掛けに満ちた物語を見せつけ、世界の深みを読者に否応なく体感させてくれるこの文才は、今もやはり何ものにも代え難い。そして我らがヒーロー&ヒロインに課された心の痛み、肉体の傷み。重層的な人間関係の厚みと英米両国を横断する世界の広さと奥行きなどなど物語の舞台装置も堂々たるものである。
その後の後期大作群を思えばその程度の想像力の豊かさや、世界を形づくる舞台装置の艶やかさ、何よりも人の心が、欲望やエゴ、翻って正義感や繋がりなど、極端から極端に偏って往来する源となるもの、それらの偏りが、彼ら彼女たちの個性や生き様となってゆく様相なども、物語の構成に加えられているかに見える。そうした難しい面を非常にわかりやすく時には軽妙とさえいえる文章で語ってゆくウィンズロウの才はその後にもずっと繋がってゆくものだ。
それまで他の様々な分野で煌めかせていた才能を、作家としての第一歩を踏み出すこの作品でさらに世界に広げて知らしめることとなった本シリーズ最初の創作物を四半世紀ぶりに楽しませて頂いた。
ウィンズロウは絶筆宣言をした後、短編集を一冊書いている。これもまた傑作であった。これから翻訳ミステリーを読もうという方には、是非ドン・ウィンズロウという巨星を知って頂きたいし、一作でも多く読んで頂きたい。似て非なる作品ばかりであり、彼の書くどのページも、試読して頂ければその強烈な個性を感じ取って頂けるものと思うがゆえに。
そして札幌読書会on-line版での昨夜のひとときを共に過ごされた皆様、ドン・ウィンズロウの完読を是非目指して頂きたい。どれも作品自体の個性が光るものばかりであるゆえに。
(2026.9.26)
題名:ストリート・キッズ<初読>
原題:A Cool Breeze On The Underground (1991)
作者:Don Winlow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 1993.11.19 初版 1999.2.19 20刷
価格:¥800
掟破りの読み順のせいで著しく興が殺がれ、甚大な被害を個人的、心情的に受けたのが、ぼくの場合、間違いなくこの作品であったろう。何しろシリーズ始動作ということで、さすがに読んでみてショックばかりなのは、この作品が主人公の生い立ち・環境描写にその多くの部分を費やしていること。
プロフェッショナルで老獪な探偵ジョー・グレアムにニールが拾われた経緯はもちろん、探偵稼業のイロハを叩き込まれる過程、エピソードの数々。そしてニールの職業的基盤が出来上がってゆくさま、すべての意味でシリーズにとって当然重要な作品である。
それをぼくは『
高く孤独な道を行け』の後に読んでいるのだ。こんなに悲しいことは滅多にない。たいしたシリーズじゃないと高を括っていたわけではないけれど、これほどの傑作シリーズと知らなかったのは事実。衝撃は大きく、悲しみは深い。
活劇という意味では『高く孤独な……』に負けるけれど、内容的にニールという独自な主人公設定に最も重心を置いた作品である。だからこそ……なのであった。こんな失敗は犯してはいけない!
(2000.01.16)
最終更新:2026年09月26日 17:03