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真紅のレクイエム




題名:真紅のレクイエム
原題:Desperate Measures (1994)
作者:David Morrell
訳者:山本光伸
発行:早川書房 1996.4.30 初版
価格:\2,200



 デイヴィッド・マレルの冒険小説にはかの有名な『一人だけの軍隊』という最初のピークがある。その後『ブラック・プリンス』『石の結社』『夜と霧の盟約』というドルーとソールによる第二のピークがあり、そしてこの筆は息子の病死によって突然折られる。その最悪の時期を昇華させたのが、ジャンルこそ違えど『螢』という最上の作品だったが、その後、著作に必ず彼の息子をモデルとして登場させる彼の筆は、かつての手腕を失っていた。

 それはマレルの人生や創作における摸索の日々であったろうし、その中でかつての集中力が失われているのを、かつての三部作の強烈なファンであるぼくは、痛切に感じ取り、悔しく思っていた。そういう意味では、この作品もマレルの過去のピーク期を感じさせるものではないと思う。しかし、それにも関わらず「マレルの最高傑作」という賛辞がカバーに刷られている。

 そしてぼく自身、『螢』以来、最もマレルの生身を感じさせる作品に出会ったとの想いが強いのがこの作品である。優れた作品イコール感動という図式が成り立たないように、この作品のようにエンターテインメントとしては物足りなさを覚えながら、ある意味でマレルのピークと『螢』との両者につきあった者にしかわからないマレルらしさの復帰を感じるのだ。

 この作品の主人公が息子の死を克服するサブ・ストーリーこそが、マレルの生身の想いであり、息子が教えてくれた生の重要さを主人公が絶望の中から拾い上げてゆくその姿こそ、マレルの悲しみの刻印と復権である気がする。主たるストーリーそのものに凡百のスリラーから受ける物足りなさを覚えながらも、いくつもの言葉がこちらの心の底に頻りに響いてくるのだ。何とも難しい作品なのだ。

 しかしぼくには本当にひさびさにマレルのある部分に触れることができた喜びが残る。マレルはこうしてどこかで強烈な印象を残す作家だったではないか。そんなことを今再び思い出させる一冊……とぼくは最後に言いたいのだった。

(1996.07.29)
最終更新:2007年07月15日 21:31