生と死の幻想



題名 生と死の幻想
著者 鈴木光司
発行 幻冬舎文庫 1998.4.25 初刷
価格 \533

 ホラーでもなくミステリーでもない、いわゆる私小説的な短編集。地味な物語ばかりで娯楽性はとても薄い。

 小さな娘を抱える親という題材ばかりが並んでいる。体が大きい父親、仕事を持つ母親というのが基本的な家族構成だけど、これはそのまま鈴木光司という作家の持つ状況。作家であることと同等以上のエネルギーを子育てに向けると豪語する作家らしい親と子の作品群。

 それでいてどれも死の恐怖、日常生活の中の愛情が書かれている。いつそちら側に滑り落ちてしまってもおかしくないような、日常の裏にある死や暴力の世界。世界の表と裏とでも言うべきか。そうしたことどもを深く見つめて謳い上げた作品群。悪くいえば純文学的。よく言えば高い文学性。それなりに鈴木光司の持つ天分だ。

 子どもへの愛情が共感できるために、ぼくのような同世代の父親には非常に読みやすく感心も持てる本なのだけれど、『リング』シリーズのどちらかと言えば若い読者には退屈過ぎるのかもしれない。

(2000.05.04)
最終更新:2007年07月22日 22:19