パレスチナから来た少女
題名:パレスチナから来た少女
作者:
大石直紀
発行:光文社 1999.03.30 初版 1999.06.10 4刷
価格:\1,600
森詠や落合信彦などジャーナリスト出身の作家が書きそうな作品である。新人にしてはこなれているんだけど、落合信彦の作品がそうであるように、文章密度が薄い感じでスカスカの文体っていうのは、やはり印象に残りにくいものがある。読みやすいのだけれどインパクトは弱い。
何を今さらの中東問題について作者は小説という形で生真面目に提起してくれているんだけれど、そういう意味ではやはり
船戸与一の小説のパワーの足元にも及んでいない。船戸の小説中の小さな一章ってところか。少々短いのかな。それともやはりスカスカ文章がいけないのかな?
ここと言ってアラがないだけに逆に個性もない。今どき国際情勢を真っ正面に持ってくるエンターテインメント系の新人って少ないだけに、どこかもったいない。ここまで国際感覚があって、良く調べも行き届いていて、それでいて、じゃあ何を今さらパレスチナなのよ、と言った感じで読者側モチベーションにまで訴えかけて来ない。
船戸のすごいところは、日本のぼくらの日常にとんと無縁な国際的な現実を結果的にはぼくらに知らしめているのだけれど、やはり主軸は物語の面白さにあるってところだと思う。面白くもなく救いもないはずの辺境の現実の中に、生き生きとした人間の悲喜劇をドラマティックに描き出す筆力が魅力なのだ。
この作者も復讐の女性を描き出してはいるけれど、構成がいまいちである。船戸文学のように、主人公が物語の中で凄まじい変貌を遂げる、ああいう歴史が作中に
欲しいところ。この作品ではすべてがもう変貌を遂げている辺りから始まっているので、退屈なルポルタージュを読まされている感覚が、ずっとどこかにくすぶり続けてしまうのだ。
さらっと面白いのにずしりとした手応えがない。小説の何か重心が定まっていない感じなのだ。いいものがあり余って齟齬もないだけに本当に惜しいなあ。
(1999.08.18)
最終更新:2007年12月31日 14:07