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五つの標的


題名:五つの標的
作者:山田正紀
発行:光風社文庫 1995.4.10 初刷
価格:\500(本体\485)

 その昔、山田正紀の書く襲撃小説が好きで、やたら読んだものだが、『火神(アグニ)を盗め』などは未だに印象に深いものがある。主人公たちは素人が多く背景に哀しいまでの庶民性を抱えている。そういう読者に近い立場の襲撃者たちが大きな組織だった標的を襲撃する、これぞ山田正紀の真骨頂であった。

 その山田正紀もなんだか徐々に推理小説に目覚めて行ってしまい、戯作性に磨きをかけて、あっという間に大衆の売れっ子作家になっていっちまったのだ。悲しいんだよなあ、これが。昔の山田正紀を知っている読者は、なんと神にさえ戦いを挑む庶民の気概を描いていたんだから、物語そのものの面白さだけに走られちゃうと、もう何とも悔しくてたまらなかった。そうしてぼくは山田正紀を見捨てた。

 というところでこんな風に昔ながらの、短篇集ではあるが、あの当時の題材をここに復活してくれると、何とも懐かしく有り難い気持ちになる一冊が出ているではないの。ぼくに冒険小説のエッセンスを教えてくれた山田短編であるのだ。

 最初の『地下鉄ゲーム』から飛ばしてくれる。題名にゲームがついただけで、山田正紀が意識する作家だというジャック・フィニィの襲撃ものをぼくらも思い出していいのだ。そして残り四作、すべて色は違えど、同じ紙に同じ墨で書かれた、同音異曲。ひさびさだなあ、もっとこういうのをできれば長編で書いて欲しいものだなあ、との感慨を胸にこの本を閉じたのだった。ストーリーの面白さは山田正紀の場合、ある程度既に保証されているんだから、あとはその人間性、庶民性をさらに練りあげて欲しいのだと思う。そして読後に残る山田ワールド特有の哀愁が、いつもそこにあり続けて欲しいのです。

(1995.08.09)
最終更新:2008年03月24日 01:03