インターセックス



題名:インターセックス
作者:帚木蓬生
発行:集英社 2008.8.10 初版
価格:\1,900

 帚木蓬生という人の経歴は面白い。大江健三郎と同じ東大仏文を出た後、生まれ故郷の福岡に戻り、九大医学部を卒業して精神科医になっている。

 医学部卒の作家というのは最早珍しくもなんともないが、とりわけ精神科といえば、これまた北杜夫、加賀乙彦など小説の大家で知られる分野でもある。精神科のように人間の心の探求を行うという作業から、小説という表現の世界に至るルート・ファインディングはそう不自然ではないのかもしれない。

 本書では、突然変異として扱われることの多い両性具有、いわゆる半陰陽の実情から、問題とされるべき点を浮き彫りにし、現在の医療や差別に対する社会モラルを問いつつ、対象者やその家族、に向けても、人間らしい心の持ち方、あり方を、といった本来ベーシックであるべき問題を、読者に問いかけてくる衝撃のストーリーである。

 個々のカウンセリング模様を通して、改めて投げかけられる問題は、それぞれの断章を通して理解に繋がってゆき、知られざる影の部分に光を当てている。医学者としての立場と表現者たる作家としての立場を活用した、作者ならではの良心の一冊と言っていい。

医療ミステリーは、その性格上、広く大衆にとって情報小説といった側面が少なからずあるものだし、その中で理解を求めたがる作家の側の押しつけがましい感触のようなものを微妙に持っていることが多く、その使命感が作家の側に強ければ強いほど、抵抗感も生まれたりするものである。

 その意味で、この作家のある種の作品などは、ぼくは、小説としてではなくルポルタージュとして正当に作ってもらった方が、いいような気がしたものだ。娯楽小説とルポとは区別してもらった方が親切であるように感じるし、それ以前にテーマの重さが小説としての興を殺いでしまうことも十分に感じ取れたからだ。

 例えば、『アフリカの蹄』などは押し付けがましい小説として作家の善意ばかりが目立ち、読後感が悪く、読んだことを後悔さえした。解決方法はない開発途上国の医療に関してのみを語りたいならば、ルポという方法のほうがまだ身に入ってくると思う。残忍な感染小説を読まされても、感動はどこにもないのだ。

医療の情報小説的弱点を十分に予測した上で、娯楽小説に仕上げるという腕では、最近めきめき頭角を現し始めた海堂尊のような作家が、帚木サスペンスのような旧い実直派作家を脅かしている気がする。

帚木蓬生は、いわば生真面目すぎる作家なのだけれど、それで損をしている点も沢山あると思うのだけれど、本書は彼の医療ミステリとしては、まだいい方ではないのか。『閉鎖病棟』『臓器農場』といった彼の良かった面を久々に思い出した。

 主人公のドクターに共鳴できる点、患者たち、脇役たちの個性が、それぞれに活き活きと描かれている点、つかみはよくないが、徐々にスリラーとしての体裁が整えられてゆく点、ショッキングなどんでん返しなどなど。盛り上げられるサスペンスと、呆気ない幕切れは相変わらすこの作家の不器用さを感じさせるほど惜しい。もう一歩娯楽小説の側に踏み出してくれれば、とは思うのだけれど。

(2009/01/18)
最終更新:2009年01月18日 22:41