パラドックス13




題名:パラドックス13
作者:東野圭吾
発行:毎日新聞社 2009.4.15 初版 2009.4.20 2刷
価格:\1,700

 理科系出身のミステリ作家として『ガリレオ』シリーズで物理学教授・湯川学を名探偵役に据えたシリーズが小説にテレビに映画にとヒットしているのだが、かくいうぼくもガリレオは大好きなシリーズである。福山という俳優はどちらかと言えば苦手な方なのだが、ガチガチの理系で白衣の似合った喜劇的な役柄はなかなか見ごたえがあって楽しい。

 文科系の読者はけっこう理系のミステリが好きなのかもしれない。例えばぼくはCSIにはまったきり、未だにその世界から抜け出せない。科学捜査のシリーズはどちらかと言えば、リアル感があって好きなのだ。

しかし東野圭吾の場合、一見解けそうにないトリックを解決してみせる湯川学のシリーズであっても単なる本格推理に終らず、いつも人間がそこに描かれているのである。『容疑者Xの献身』はまさに涙を誘われるような純愛ものだし、続くガリレオ・シリーズ『聖女の救済』もまたうちに秘めた愛と憎しみを描き切る凄みに満ちていた。

 もともと『白夜行』や『幻夜』などのような犯罪者の側から描いたビルディングス・ロマンをさえ描き切ることのできる作家なのだから、そもそも才能が違うと言ってしまったほうがよさそうな気がするが、やはり人間に対する洞察の深さはこの作家のまぎれもない美点だ。

 本書は、いわゆるミステリファンの間で物議を醸し出しそうなほど理系そのものである。広義には謎を解く小説であるからミステリと言えるかもしれないが、少なくとも犯罪小説ではない。大掛かりな時空のトリックは物理的な題材を取っており、まさに大法螺の世界、SF冒険小説であるのだ。

 突然、東京から人が消える。星が消えてゆくミステリを描いたのは鈴木光司『エッジ』だったが、身の回りに人が全くいなくなる。そういう体験をどう解釈していいのかわからない主人公が、やはり世界に取り残された人と出会い、一同に介するが、東京は不気味な鳴動を繰り返し、天変地異による破壊が進んでゆく。

 残された一握りの人間たちが決死のサバイバルを断行しようとするが、そこはやはり小さなグループと言え人間社会であることには変わりがなく、心理戦や情念の悲喜劇が繰り返される。こうしたところこそが東野圭吾のうまいところなのだが、しかし空前絶後の小説を書いたものだ。

 久々の冒険小説らいい冒険小説。近未来というのでもない。宇宙と時間のパラドックに紛れ込んだ人間たちの、突然の脅威に満ちた物語。奇妙すぎる設定であっても、ヒューマンなドラマっぷりは健在だ。それにしても呆れるほどの気宇壮大な物語を作り出してしまったものだ。楽しくて一気読みであったし、いい意味でも悪い意味でも、誰にとっても当分忘れることのできない(うなされそうな)小説になることを保障しまうす。

(2010.01.30)
最終更新:2010年01月31日 02:42