狂信者
ラドラムのこういうラドラムらしい冒険小説って実にひさしぶりな気がする。だからこそ今回はこの本を通してラドラムのラドラムらしさみたいなものを、ぼくはあきれるほど感じてしまった。
ラドラムは俳優→演出家→脚本家などを経ているんだけど、大勢の観客の生の反応に敏感に反応せざるを得ない世界という非常に厳しい枠組みの中で作家になることを決意してきた人間である。その結実が世の文壇的なものにどう評価されようが、ラドラムがめざした観客ならぬ読者の「ウケ」みたいなものは、本当にラドラムの場合半端じゃなかったと思うし、それなりにラドラムの小説家への転向は彼を世界的に名の知れた長者へと変えた。
しかし、40歳を越えて作家デビューしたというのが、如何せんここ数年のパワーダウンを免れ得ないでいる原因であると思う。初期作品『ホルクロフトの盟約』のような暗く黒い結末を迎えてもぼくのほうはいっこうに困らないのだが、この作品ではなぜか結末の明るさまでが予約されているようなやわらかムード。
脚本書きであったせいだろう、筋書きを主として会話によって運んでゆくリズムは確かにラドラムのものだが、昔の緊迫感はずいぶんとまあ衰えてきたなあと痛感させられた。『マタレーズ暗殺集団』の頃から用いているお約束の合言葉かけ言葉は、今回は「アシュケロン」。こんなものの連発を見ていると「カインはデルタ」なんてサブリミナル的に繰り返し繰り返し言ってた頃の『暗殺者』なども思い出してしまう。そう、実にラドラム世界なのだけどねえ。
でもやっぱり衰えたんだなあ、としか言い様がない。なかなか評価さえされていない『最後の暗殺者』あたりがこの人の長距離走の一つの終点であったのかもしれない。
(1995.07.07)
最終更新:2013年04月29日 18:30