暗殺者オファレルの原則




題名:暗殺者オファレルの原則
原題:Ofarrell's Law (1990)
作者:ブライアン・フリーマントル Brian Freemantle
訳者:飯島宏
発行:新潮文庫 1993.5.25 初版
価格:\680(本体\660)


 フリーマントルっていうと、ぼくは <皮肉に満ちた小説> という印象があるのだけど、この新作を読んでみて、その感を一層強くしたというか、むしろ、彼は一片の皮肉を小説という形で本にしているのではないか、とまで思われ、どうにもやり切れない唸り声を挙げたくなってしまうのであった。こういう読後感って、思えば、フリーマントル特有のものなのだ。

 全体がすっきり明るくなってくれないのは今に始まったことじゃないけど、ここのところ作品の描写量が増えて、頁数も増えて、初期の頃の簡潔な小じんまりとした長編のイメージはなくなってきているようである。だからもともと粘性のあった文章ではあるけれど、この頃ではもう、その<粘り気そのもの>が勝負、って感じになってきちゃったのではないだろうか?

 確かにこの描写の細かさ、粘っこさは読者にとってもしんどい。今回の作品は特にしんどい。でも結局は読まされちゃう、っていうのがフリーマントル作品だし、ラストへのシニカルな突入、一見奇妙だが実はリズムに乗ったクライマックス、というところまで味わってみると、なぜすべてが粘っこかったのか、なぜここまで主役たちの心理が微に入り細に入り描かれねばならなかったのが、何故かその必然さが理解できて来るのである。

 しかし、このプロット的にはどうということのない比較的シンプルな話を 500 頁強の物語に紡ぎあげる力、しかも、最低限緊張感を持続させながら描写し抜く力って、正直言って現存の国産作家にはほとんどないと思う。海外作家だってなかなかないけど(^^;) まあ、その辺りがフリーマントルのお家芸と言えば言えるし、ロス・トーマスじゃないけれど語り口だけで本を売る作家って、世の中にもっといてもいいと思う。

 しかし本書、相変わらずのひねくれた脱稿の仕方には、思わず首をひねってしまいました。こんな終わり方ってあるかなあ(^^;)

 やっぱりフリーマントルは変だ (^^;)。

(1993.06.28)
最終更新:2013年05月02日 23:04