危険な弁護士
題名:危険な弁護士 上/下
原題:Rogue Lawyer (2015)
著者:
ジョン・グリシャム John Grisham
訳者:白石朗訳
発行:新潮文庫 2019.7.1 初版
価格:各¥710
作者の名を何度も確かめずにいられないくらい、グリシャムとしては異端の作品である。逆に言えば、この小説を読んでグリシャムの印象を決めないことを望む。グリシャムはリーガル・サスペンスの王道をゆくような正統派作家である。しかし、そうこの作品は、異端と言ってもよいだろう。
そもそもグリシャムとしては珍しく、本書は連作中編小説のような構成である。長編作家として知られるグリシャムが、一話完結的な中編物語を紡いでゆく上巻。まずは異端の弁護士の一人称と、その悪ぶった語り口に違和感を覚える読者は多いだろう。これ、グリシャム? ブラックでは? ノワールでは? そう思わせるような、一匹狼のタフな
プロフェッショナル弁護士セバスチャン・ラッド。
どんな奴でも弁護する。信じられるものは法律だけ。趣味として真夜中のケージ・ファイトに出かけ、犯罪者たちとの賭博行為を行うばかりか、ファイターに出資すらしている。これが本当にグリシャム?
しかし徐々に、このネガティブ・キャラクターが、手段を択ばない執念や怒りの強さにより、入り組んだ個々の事件が絡み合う迷路のさなか、狭い狭い抜け道を見つけ出しては、個性的キャラクター(暗黒街の大物も警察上層部も何でもあり)を次々と手玉に取って、あり得ない結末を導き出してゆく様子に、いつの間にか拍手を送っている自分に気づく。
こんなごみ溜めのような世界に生息する弁護士であれ、その生きる糧は勝利なのであり、自分の持てる力を発揮して世界を正しく変えてゆく目的への強烈な飢餓感なのである。あきれるほど駆け引きに長けたダーティ・ヒーローによる、あくまで法律を準主役としたリーガルミステリー。グリシャムが読者の期待を良い意味で裏切る熟練の騙し技を、いくつも垣間見せてくれる本書の娯楽性は、鋭い切っ先を持つ刃の切れ味であった。
(2019.12.14)
最終更新:2019年12月14日 13:25