砂男





題名:砂男 上/下
原題:Sandmannen (2012)
著者:ラーシュ・ケプレル Lars Kepler
訳者:瑞木さやこ/鍋倉僚介訳
発行:扶桑社ミステリー 2020.01.10 初版
価格:各¥1,000

 連続してスウェーデン・ミステリに取り組む。

 「このヨーナ・リンナ警部シリーズは、当初より8作完結のシリーズで設計され、現にスウェーデンでは、最後まで書き継がれている様子だが、邦訳はこの後『契約』『交霊』の三作でストップしている。版元が8作までやり切るなら読者としてもつきあう気になるのだが、途中で投げ出されているのではどうにもならないね。残念!」

 とはヨーナ・リンナのシリーズ第一作『催眠』のレビューで自分が書いたもの。ファンはハヤカワ文庫の三作から6年間待たされ、今扶桑社ミステリで4作目を手に取ることができたものである。二作目、三作目を吹っ飛ばして、巷で評判の高いこの四作目に取りかかると、『催眠』も悪くなかったものの、催眠を使う医師とのダブル・キャストによりヨーナ・リンナという癖の強い刑事の特徴があまり出ていなかった。

 本書も、サーガ・パウエルという潜入捜査官とのダブル・キャストとは言え、ヨーナにとって因縁の事件がクローズアップされるとあって、シリーズ佳境という言葉が似合いそうなクライマックス感がたっぷりなのだ。おまけにサーガも凄く良い。

 それ以上に閉鎖病棟に収容されるユレック・ヴァルテルというシリアル・キラーが、かのハンニバル・レクターを想起させるサイコぶりで、小説世界を圧倒する。閉鎖病棟のシーンは一秒一秒(一頁一頁?)が息詰まる緊張感に満ちており、そこにややこしい変態新人医師が絡んでくることもあって、病棟全体が予測不能の時限爆弾の存在となる。

 一方で宇宙開発時代のソ連、またその支配下にあったカザフスタン、まだ移民を受け入れる体制になかったスウェーデンであれ、そこに亡命してきた移民の姿など、闇の歴史にまで遡る物語の深度と言い、作品世界の重層構造そのものにも驚かされる。

 意味深げなラストシーンも含めて、非常に人気のあるシリーズであることがわかる全体像となっている。是非、継続して翻訳を願いたいところだ。

 覆面作家であった著者は、その後、二人の別ジャンル作家夫婦によるものであることが判明しており、その筆力は本書でも相当に証明されている。今回のパートナーである美女サーガは、二作目から登場するらしい。遡って読まねばなるまいな。

(2020.02.28)
最終更新:2020年02月28日 23:37