白い悪魔




題名:白い悪魔
原題:The White Davil (2016)
著者:ドメニック・スタンズベリー Domenic Stansberry
訳者:真崎義博
発行:ハヤカワ・ミステリー 202.02.15 初版
価格:¥1,900



 読者を遠くの世界に連れてゆく小説としては、とても成功している。セレブな世界。ローマ。教会という権威。マフィアという組織。アメリカ西海岸のプライベート・ビーチ。華麗な休暇。豪奢なディナー。一流の酒。

 そういった世界に這い上がるギャッツビーみたいな世界は、アメリカン・ドリームと言われ、いくつもの物語を生み出してきた。たいていはのし上がって逆転してゆく物語と、そしてなぜか必ず幕を引くときには、破滅。

 破滅の物語。ノワール。なぜかどんなに上り調子であろうと、そのままで終わろうはずがない、との予感はある。これは重ねられた罪の物語なのか。それは己の罪なのか? 他人の罪なのか? 不安定極まりない土台の上に構築されてゆくリッチな金と権力の王国。

 美しいヒロインが物語を紡いでゆく。王国の建立の物語を。他人の王国を略奪してゆく物語を。彼女の足跡に残されてゆく、彼女のあずかり知らないいくつもの死。達成すべき欲望にストレートに進んでゆく如才のない兄との、深く途切れのない兄妹愛。不思議で不自然なコンビネーション。

 ノワールの持つべき銃弾の破壊力を、弾倉に次々と込めながら、引き金に人差し指を置くような、危険な小説である。信じられるものが皆無。語り手の言葉さえも。ただおこなれてゆく不正と欲望の闘いは、破滅への歴史を形作る。求めている幸福のありようさえも疑わしい、力と力の攻防が、女性一人称の華麗な日々を通じて匂わす小説。

 ハメット賞受賞。語らずに語っている小説、だろうか。ダシール・ハメットの如く。計り知れない暗黒の力に引きずられながら、どこまでも妖しい美女の言葉に耳を傾けて頂ければ、と思う。

(2020.03.14)
最終更新:2020年03月14日 11:20