レイトショー
題名:レイトショー 上/下
原題:The Late Show (2017)
著者:マイクル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:ハヤカワ文庫HM 2020.02.14 初版
価格:各¥880
楽しみにしていたコナリーのニュー・ヒロイン、レネイ・バラード初登場作品。コナリーのメイン・シリーズを背負う我らがヒーロー、ハリー・ボッシュがかつて在籍したハリウッド署、しかもそのナイトシフトの刑事たち(タイトルの通りレイトショーと呼ばれている)を舞台に展開する独特の警察小説ワールド。
コナリー作品の特色を余さず継続している。バラードの勤務先として描かれる警察署内の凌ぎ合い・暗闘・友情など従来のコナリーの描写にプラスして女性ヒロインならではのセクハラという材料などもじっくりと取り入れている。
さらにヒロインであるバラードを、彼女自身につかず離れずの視点で密着して描いている。新刑事ヒロインの公私の生活。人となり。これまでの人生。関わる人々の個性。素晴らしく濃密に描かれている。
ハワイはマウイ島出身。父をサーフィンの事故で失い、母とは幼児の頃から音信不通。西海岸の祖母に引き取られ、彷徨の末に新聞社に入社。様々な事件に魅せられ、ついに警察官となる。そんな生い立ちのバラード・シリーズに初物ならではの興味を否応なく引き立てられる。そしてコナリー・ブランドならではの素晴らしい。
レイトショー勤務では、殺人事件のみならず、様々な犯罪に立ち会わねばならない。一晩に起こるいくつもの難事件。朝が来るとそれを日勤の担当刑事たちに引き渡さねばならない。夜勤刑事はハリウッド署では二人。交代勤務ではなく、ずっと。
ボッシュ・シリーズ以上に事件の種類が増えるため複数事件が同時多発的に勃発する。それらのすべての事件や謎に決着をつけねばらないので、読者もけっこう忙しい。モジュラー型ミステリーと言ってもよいかもしれない。
しかも事件は昼間の捜査課に持っていかれる。でもバラードは捜査を続けたい、事件を自分のものとして追い続ける。当然ながら警察内での軋轢。疎外。夜勤の相棒は家庭内事情にてあまりやる気はなし。ゆえにソロでの捜査が続く。
女性独自の危険が描かれる。女性ならではの私生活も。パドルボードの趣味。海辺でのテント生活。そこそこの愛人。そして何よりも事件の中でこだわる人間と人間の問題。基本的にはボッシュと同じ世界でありながら、あまりの変数の多さに驚かされるまずまずのシリーズスタート。
コナリーの小説世界には、やはり外れはない。優れた完成度の高さにレネイ・バラードという女刑事のシリーズスタートと、この魅力的なヒロイン像を創り出してくれた大好きなこの作家に改めて喝采を送りたい。
(2020.03.19)
最終更新:2020年03月19日 21:30