嗤う猿




題名:嗤う猿
原題:The Fifth To Die (2018)
著者:J・D・バーカー J.D.Barker
訳者:冨永和子
発行:ハーパーBOOKS 2020.03.20 初版
価格:¥1,236


 猿のシリーズは三部作だったとは知らなかった。これは三部作の二作目なので、はっきり言って前作を読まずにこれだけ読んでも意味がわからないと思う。否、前作を読んでも本書の意味はわからないかもしれない。今秋に最終作が発表されるとのことで、巻末に最終話の最初の数ページがサービスで紹介されていたりもする。今の心境。このまま最終作を読むまで、本書で新たなに開示された謎を解くことができないことが辛い、の一言。

 本作では、第一作『悪の猿』に続く少女連続誘拐監禁事件を違うバージョンで見させられているイメージである。しかしどうも本作では、一作目の事件から四か月後、前作とは異なる種類の人間による内容の異なる連続誘拐監禁事件が発生し、異常性は前作よりも増している。前作では知的で整理された天才犯罪者4MK(四猿)の存在がクローズアップされたものだが、本書では自分をコントロールできない身も心も魁偉な異常者による荒っぽい犯罪が注目される。怖さはそのアンコントロール感により、むしろ倍増すると言ってよい。

 そして捜査側も分断してゆくように見える。前回の主役サム・ポーターは無論主役を引き継ぐのだが、どうもポーターが前妻ヘザーを失った過去による傷だけでは事は収まらぬようである。語られない深淵がまだまだ三作目に用意されていることを暗示しつつ、サブ・ヒーローとも言うべきFBIのプールが並行した捜査を展開する。前作の捜査チームだけでは足りないのだ。

 しかもニューオーリンズやサウスカロライナ州にまで謎の行方は過去を通して繋がってゆく。スケール感が大きくなり、前作で解けたように見えていた謎はさらなる謎につながる呼び水のような構造となる。新たな展開により倍増する犠牲者たちと、その関係性に対する謎。そんんなすべてに解決をつけないまま、物語は最終作に語り継がれようとしている。

 解決したかに見えた捜査チームの成果が次の作品でどんな逆転劇を見せてゆくか、緊張は全く緩まないまま、疾走感はブレーキを壊したまま、スピード感、恐怖、展開の大胆さに対する期待、そして何よりも知りたい真実へのはるけき距離を思いつつ巻を閉じる第二作。

 今秋までこの展開を覚えておかねば。片付かぬ宿題をそのまま背負わされたような重圧と期待感を表裏一体にして、700頁越えの本書の厚みと深みとが、ぼくの時間を侵食してくる。ううむ。

(2020.04.18)
最終更新:2020年04月18日 15:49