逃亡者の峡谷
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題名:逃亡者の峡谷
原題:Savage Run (2002)
著者:
C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:講談社 電子書籍 2020.01.01 初版
価格:¥1,320
ジョー・ピケットのシリーズ中、唯一未訳だった第二作がようやく読めることになった。但し、電子書籍のみである。kindleでの読書経験がないぼくは、この手の読書というスタイルに二の足を踏んでいたのだが、本を持たなくても携帯を持つ時世、どこでも気軽に続きを読めるというのは結構良いところもあるものだな、との印象。増してやそう分厚くなく、そしてページターナーと呼ぶべき面白さを持つ作品であれば。本書のように。
主人公はジョー・ピケットなのだが、けっこうジョー以外の主人公も活躍するのがこのシリーズ。本書は複数主人公のような味わいを持つ作品。何と言ってもタイトルにもなった"Suvage Run"直訳で『けものみち』となるのだろうか、本書でいう『逃亡者の峡谷』こそが人間ではないものの主人公と言えるのかもしれない。
かつて牛泥棒を撃ったトム・ホーンの伝説。本書では現代の伝説にもなろうかと言う環境活動の過激派代表スティーウィ・ウッズ。彼らももしかしたら本書の主人公と言ってよいのかもしれない。
大自然を背景にした本シリーズだからこそ、何度も取り上げられざるを得ない環境開発vs.生態系保護というテーマ。また年々深刻化する地球温暖化問題。何も本書のようなワイオミングの大自然でなくとも、海や山の破壊に根差す地球規模の課題は常にこのシリーズを取り巻く環境課題であり続ける。
2002年に書かれた本書でも牧場経営という名のもとに行われる残念な歴史的変化が取り上げられており、中小の牧場主から投資家へと土地の主がバトンタッチされたことで被害者となる野生動物の問題などについても暴露されている。自然環境に密着した職業を経験した作者ならではの視点がジョー・ピケットに委ねられたものであることは明らかである。
本書ではこうした北米の大自然の環境に関して対立する団体の軋轢の中の時代的変容を扱いながら、人間としての生き様、誠実ということの在り方、などをいつもながらに(
ディック・フランシス風に)描き切っている。この著者独特の作風と頑固さである。そして何よりも、大自然の荒々しさや美しさ、野生動物たちの命の駆け引きなど、作品に対する誠実さを感じさせてくれ、なおかつ大草原の小さなホームドラマをもロングレンジとしてシリーズに埋め込んでいるとても優れた作品である。
未訳だった本書に続きシリーズ新作『
発火点』が版元を変えて6月に登場するとの有難いニュースもある。外れのない本シリーズ。ずっと読みたい!
(2020.04.19)
最終更新:2020年04月19日 17:51