ミスコン女王が殺された
題名:ミスコン女王が殺された
原題:Lethal Bayou Beauty (2013)
著者:
ジャナ・デリオン Jana Deleon
訳者:島村浩子
発行:創元推理文庫 2018.9.21 初版
価格:¥1,000
アメリカ南部ルイジアナ州。バイユーにワニの生息する人口300のシアフルという小さな町。こんな静かで平和なはずである町に、CIAでへまをやらかした女スパイ、フォーチュンが身を潜めてからいきなり事件が連続するようになった。わけありのおばあちゃん二人アイダ・ベルとガーティとのトリオでの活躍シリーズ第二弾。
先日の翻訳ミステリー札幌支部のZOOMによるリモート読書会では、このシリーズ翻訳は三作目までなされたけれど、この後の続巻は売れ行き次第とのこと。たいていの翻訳シリーズ物は三作までの版権を得て、その売れ行き次第で出版を続けるか否かを決定するということが、出版事情に明るい方により明らかになった。
なのでぼくもささやかながらこのシリーズの力になるべく既訳の三作は読むことにする。あまりユーモア・ミステリに食指を動かされるタイプではないが、主人公の若い姉ちゃんフォーチュンは、ある意味ハードボイルドな戦闘的主人公であり、男顔負けの戦闘能力に長けているわけで、ユーモアと言いながら男性読者を十分に引き連れてゆける魅力に富んでいるのだ。アイダ・ベルとガーティの老女二人も然り。
タフでハードな女性トリオによる本編はタイトル通り。バナナプディングに関する競争相手(一作目ご参照)シーリアの娘であるミスコン女王が殺害される事件が発生。殺害状況
その他が不明ななか、戦闘女トリオはイケメン保安官助手カーターの目線を潜り抜つつ隠密捜査を展開、ドタバタアクションで読者を爆笑させつつ真相に迫ってゆく。
この作家の天才を感じるのはこのあたりの展開だ。あらゆるシーンが爆笑要素とスリルに満ちている。
それでいてカフェ店員アリーという普通の女の子も登場させ、ドライで孤独なヒロイン、フォーチュンに普通の世界を体験させることで、改めてこの町での日々によるヒューマニズムのような感触を彼女自身に感じさせる。一冊二冊の作品展開のなかでも、少しだけ鋼鉄の戦士に温かい血が流れ、心が通電するような微妙な変化が生まれる。このあたりの描写も素晴らしいのだ。
特に保安官助手カーターとの間に生まれそうで生まれない、女性として初めての恋愛感情の卵のような意識。このあたりも繊細で可愛らしく、あくまでハードボイルドなヒロインがこの先18作くらい続いてゆくシリーズでどれくらい人間化してゆくのかというプロセスもなんだか楽しみでならない。
ちなみにこのシリーズ10作を越えても3か月くらいしか経過しないという。邦訳されている三作だけでも10日ほどしか経っていないらしい。フォーチュンがこの町に来てからいきなり事件が連続し、保安官事務所はいきなり忙しくなってしまうのだ。こんな無理な展開でも中身が詰まっていれば読者は食いつく。さて続けて三作目にとりかかろう。
(2020.06.19)
最終更新:2020年06月19日 12:59