喪われた少女 THE ISLAND
題名:喪われた少女 THE ISLAND
原題:Drungi (2016)
作者:ラグナル・ヨナソン Ragnal Jonasson
訳者:吉田薫
発行:小学館文庫 2020.08.10 初版
価格:¥800
どんどんダーク化が進んでいるラグナル・ヨナソン。その中でもあまりにダークすぎるスタートを切った女性警部フルダ・シリーズ第二作。第一作で読者側の概念をまず思い切りひっくり返すところから始めたヨナソンという作家は、本書でもフルダというダーク・キャラな中年女性警部をヒロインとして、彼女の出生の秘密に迫りながら、複雑に絡み合った人間関係のもたらす二つの事件を描く。
一方で孤立した別荘での殺人事件、さらにフルダが十年後に偶然担当することになった孤島での女性の謎めいた死のあまりに強い関連性に読者は、あっという間に引き込まれることになる。前作でフルダの運命に絡んだと言える、警察内部の悪辣な上司との絡み、そしてフルダの持つ不運とも言うべき試練のいくつかが並べられるに及んで、シリーズを覆う緊迫感はまたスケールアップするかに見える。
アイスランドという国の遥かさにまずは眼がくらみそうなのだが、作中で明かされる地名は無人島も含め、グーグルで検索することができるし、無人島なのに実際に建つ謎の別荘の画像は、一際目立つ状態で紹介されており、アイスランド在住の作家だからこそ書ける地の利は、警官三部作でもフルダシリーズでも紛れもなく表れている。
ましてやフルダは山登りを趣味とする孤独な中高年女性警察官であり、人口の極めて少ないアイスランドの大自然を前作ともども本作でも利用しながら、その絶海の雰囲気や孤立感を、人間世界の愚かな業(カルマ)に絡めてストーリーを構築しているように思えてならない。
全編、ページターナーでブレーキのかからない快作(怪作?)だと思うが、是非前作を読んでから本作を読んで頂きたいと思う。正常な神経の方であれば、さらに未だ見ぬ第三作から逆に読みたい(それでもどうやら楽しめるらしい)と感じるはずである。なぜ前作『
闇という名の娘』のあまりにショッキングでフラストレーションのたまるラストシーンからこのシリーズを逆行しなければならないかの疑問は未だ解けていない。
本書のラストシーンは、そのフラストレーションを味わったものだけが感じられる深淵を覗き込むような感覚となるので、この響き合う谺のような奇妙で嫌な感じのシンクロ感を是非順番に読むことでしっかりと受け止めて頂きたい。
(2020.08.31)
最終更新:2020年08月31日 22:17