ガン・ストリート・ガール



名:ガン・ストリート・ガール
原題:Gun Street Girl (2015)
著者:エイドリアン・マッキンティ Adian McKinty
訳者:武藤陽生
発行:ハヤカワ文庫HM 2020.10.25 初版
価格:¥1,300


 今年初に出版された『ザ・チェーン 連鎖誘拐』には驚いた。この素晴らしい現代のハードボイルドのショーン・ダフィ・シリーズ三作を味わった後では、まるで異なる作家によって書かれたとしか思えないさサービス満点のハリウッド映画みたいなスーパー・エンターテインメントに度肝を抜かれた形だったのだ。それもそのはず、作品が売れず生活に困窮し、作家という仕事を放り出してウーパーの運転手に身を落とそうとしていたマッキンティが、新たに売れ、そして稼げるための創作に鞍替えして、完全イメチェンを図った上の作品が、当該作品であったのだ。なるほど、この面白さ、スピード感なら売れる。それはわかる。

 でも思えば、『ザ・チェーン』のおかげで、こちらショーン・ダフィ・シリーズの続編邦訳も刊行もきっと無事潮流に乗ったのだ。ぼくとしては、こちらのほうがマッキンティの実物大作品として大のお気に入りなので、ほっとさせられる話でもある。

 ショーン・ダフィは役職などには興味がない代わりに、実力派の警察官であり、そして何よりも世界に対して突っ張っている。その気高きハードボイルド精神と野良犬のような生存感覚が何とも頼もしく、ぼくは今やこのシリーズを大のお気に入りに入れている。

 本書の作者あとがきにある通り、背景には歴史的事実とされる事件がちりばめられており、シリーズ中最も北アイルランドと英国との関係が重要なファクターとなっている作品となっている。前作『アイル・ビー・ゴーン』では、密室ミステリーとして島田総司の影響をマッキンティが受けているとして、別種の脚光を浴びたみたいだが、本書はより国際冒険小説の色合いを濃くし、スケールの大きさを見せている。

 しかし何よりもショーン・ダフィという人間の生きざまそのものが、昨今失われているように感じるハードボイルド精神の気高さや底なしの意地というものを感じさせて、この武骨で喧嘩っ早い主人公刑事を応援する側につい回ってしまう、というのがシリーズの最たる魅力となっているのだ。

 是非、作中で、様々な政治的葛藤のるつぼに足掻く、プロ根性の警察官ショーンの生き様、彼の背景に鳴り響くメロディに耳を傾けて頂きたいと思う。 

(2020.12.15)
最終更新:2020年12月15日 17:23