白が5なら、黒は3




題名:白が5なら、黒は3
原題:Three-Fifth (2019)
作者:ジョン・ヴァーチャー John Vercher
訳者:関麻衣子
発行:ハヤカワ・ミステリ 2021.02.15日 初版
価格:¥1,800


 トランプ政権の終焉とともに世界の表面にシミのように浮き出てきた<人種差別>。白人警察官による黒人青年の殴殺とそれに抗議するデモへの暴力による弾圧、それを扇動する大統領。世界は狂っている。でもそれは今急に始まったことではなく、アメリカが、世界が抱えてきて隠してきたものが、表面に浮き出して可視化してきただけのことだ。

 人種間ヘイトはどの国でも存在する。これは人間が持つ特性なのだ、と言うしかないのかもしれない。でもだからこそ人間は一方でヘイトへの憎悪を覚える。やさしさと愛情に包まれて人種間の壁を越えることができる。だがゼロにはできない。

 本書はそうした世界でのヘイトの真実を炙り出す作品である。人種差別というテーマを追求する直球勝負の物語である。人間の愚かさ。ヘイトゆえに陥ってゆく狂気と暴力。秩序の否定。解体する人間関係。境界線の向こうとこちら。

 1995年3月の三日間を描いた家族と友の物語だ。否、家族や友を破壊する悪について。人種間ヘイトについて。物語の軸となるのは肌は白いが黒人の血が入っている青年ボギー。

 ある日ボギーのもとを三年の懲役を終えた親友アーロンが訪ねてくる。彼がその夜に犯す暴力事件によってすべてが崩れ始める。ボギーを育てる白人の母イザベル。離婚の危機に直面する黒人医師ロバート。白人たちの中にまぎれて黒人の血を隠すボギー、そして相談相手ミシェルも。

 すべてのアンバランスで危険な要素が、アーロンの起こした暴力沙汰により一気に動き出す。悲しきファミリー・ゲーム。白人と黒人の混在する灰色の街。世界が圧縮されたような三日間を、耐えることのない張りつめた空気の中で描き切る傑作クライム小説の登場である。

 ちなみに本作翻訳は『弁護士ダニエル・ローリンズ』の訳者である関麻衣子さん。どちらも社会問題を浮き彫りにした骨太の物語。良い作品を連続して手掛けています。グッドジョブ!

(2021.03.10)
最終更新:2021年03月10日 15:06