ローンガール・ハードボイルド




題名:ローンガール・ハードボイルド
原題:Sadie (2018)
作者:コートニー・サマーズ Courtniy Summers
訳者:高山真由美
発行:ハヤカワ文庫HM 2020.11.25 初版
価格:¥1,280


 エドガー賞YA部門受賞作品。アメリカではYA部門にこんなに残酷な作品があるのかと知ってまずは驚愕。

 原題は"Sadie"。この物語の主人公である19歳の少女の名前が<セイディ>。なので、このエキセントリックとも言える邦題は、多分に営業的な目論見、かつ内容にも即したものであるとの自信の表れか?
 少し内容や雰囲気を説明したような邦題と思って頂けるとよいのかも。

 妹マティが殺されたので姉が復讐のため殺人者と目される義父を追跡する旅に出る。ティーンエイジャーの娘セイディの一人称で語る調査と追跡物語。まさに町から町へと果てしない旅を繰り広げるロードノヴェルとしてのメインストーリー。

 しかしそのストーリーを客観世界に展開するようにして、ラジオDJマクレイがマティ殺害事件とセイディの行動を取材し、追いかける。こちらは小説文章ではなく、DJのトーク、電話取材によるヒアリング、放送局内上司とのやりとりなど、すべてが会話体のみによって綴られる。

 じっくりと語られるセイディのこれまでの家族と亡き妹への愛情や悲しみ。吃音でしか話せないというハンディゆえに、文章でしか饒舌になり得ない孤独な探偵は、一途で心身ともに傷だらけで、ともかく痛々しいのだが、それ以上にタフである。この辺りが邦題のイメージとなったのだと思うが、寡黙なゆえに心の深海に潜航してゆく決意とその昏い情動が複雑極まりない。

 語り口はハイ・テンポだが、この物語の世界は少女虐待という荒廃したテーマに象られた滅びの世界のように見える。

 取材する放送局の側が、多角的な視点から、少女の孤独の陰も陽も映し出してゆく。

 やがて二つの物語が合わせ鏡のように一つの世界に起こった事件とその結末までを描き切ってゆくのだが、その表現のオリジナリティや、語り口、人物たちの際立った個性に対する驚愕は忘れ難い。

 YAとなっているがOA(オールドアダルト)の読者他、どのような読者でも十分付いてゆけそうな異世界への招待状である。アメリカの街や砂漠や森や夜などの自然描写も卒なく素晴らしく、独特なカルト的雰囲気を醸し出している。並の物語に飽きかけている向きの方には、是非ご賞味頂きたい一冊である。

(2021.04.03)
最終更新:2021年04月04日 16:02