越境者





題名:越境者
原題:Stone Cold (2014)
著者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:創元推理文庫 2021.6.30 初版
価格:¥1,300


 前作『発火点』は、全編に渡るアクション、またアクション。大自然を舞台に、闘いの大盤振る舞いとでも言いたくなるようなページターナーぶりを見せてくれた。

 本作は、復活するシリーズ・キャラクターたちというサービスを見せながら(これだけでドキドキの期待度!)、家族物語の側面(娘二人+養女一人の青春ドラマ。そして彼女らに関わるミステリアスなキャラクターの出現などなど)周辺リスクも取り上げつつ、常に何かの、誰かの、ターニング・ポイントを予感させつつ、ジョー・ピケットとその家族を、一筋縄ではゆかない宿命に向かい合わせてゆくのである。

 本書は、ワイオミング州内全域で疑われる暗殺組織とその本拠地とされる農場を相手に、ジョーはサドルスプリングスの我が家を離れ、雪深いウィーデル、サンダンスといったワイオミング州の辺境に赴く。その地の猟区管理官や警察署長なども組織に抱き込まれている疑いの濃い灰色の地帯。あるいは、地獄の黙示録?

 ジョーを送り込んだのは彼をお気に入りの破天荒な州知事スペンサー・ルーロン。新局長のリーサ・グリーン・デンプシーは組織改革を掲げるが彼女の頭越しにジョーを使おうとする州知事とは馬が合わない。なぜか事件のど真ん中にいるというジョーの特技はそんな板挟みの中でまたも生かされることになる。

 さて本シリーズの副主人公である鷹匠のネイト・ロマノウスキーだが、本編では非常にデリケートな立ち位置でジョーを迎えることになる。闇の組織の側で本意ではないまでも、ジョーとの距離感が複雑極まりない。

 そしてもう一人、またも復活のあのへこたれない女性キャラが再登場。少しやり過ぎを疑うくらいサービス満点の人物配置と、雪深い敵地でのジョーの活躍を披露しつつ、次作へ持ち越される闘いの予感の中で、本編は一端、巻を閉じる。

 ジョーのメインストーリーに、娘たちのサブ・ストーリーが複数に絡んで読者の心を引っ掴む。潜入のスリルと、銃撃アクションと、娘に忍び寄る悪の種と、ジョー一家に影を落とす不可解な影。

 一作ずつは確かに独立した物語であれど、シリーズで順番に読んで頂くと楽しみは何倍にもなってゆく。地味ながら直球勝負しかやらない真面目キャラクター・ジョーと、彼を取り巻く悪の深さと複雑な人間関係のギャップが毎作のように楽しめ、なおかつ荒野の大自然ならではの巨大スケールな舞台設定。鉄板の本シリーズである。もっともっと追いかけてゆきます。

(2021.8.01)
最終更新:2021年08月01日 16:57