まだ見ぬ敵はそこにいる
題名:まだ見ぬ敵はそこにいる
原題:Hidden In Plain Sight (2020)
著者:ジェフリー・アーチャー Jeffrey Archer
訳者:戸田裕之
発行:ハーパーBOOKS 2021.12.17 初版
価格:¥1,060
発売前、構成前のプルーフ本を、例によって先読みさせて頂いた。
ぼくはジェフリー・アーチャーの模範的な読者ではないし、シリーズ作品をいきなりこの第二作から読み始めたことによる当惑を感じないではなかったが、キャラクター描写にとても時間をかけている作者なので、それぞれの個性は第二作からでも十二分に味わえる。否、むしろ第一作も、さらに第三作、第四作と続く本シリーズをすべて読みたいという誘惑の方が激しいかもしれない。
さて、本作のメイン・ストーリーは、主人公ウィリアム・ウォーウィックが新たに配属された麻薬取締独立捜査班が、麻薬王ヴァイパー率いる組織を壊滅、頭目を逮捕という目的に向かって捜査を進めるものなのだが、同時並行的に前作でのライバルである美術品窃盗詐欺師マイルズ・フォークナーの逮捕と裁判が同時進行形で行われる。しかも後者はおそらくシリーズのサブ主役級の宿敵扱いで、別格級の悪玉みたいに描かれている。
マイルズの裁判そのものが法廷ミステリーとしての面白さを十分に見せてくれるのだが、そちらの主役はウィリアムの父と姉である。また、ウィリアムの婚約者ベスと、マイルズの離婚係争中の妻クリスティーナが親友、という複雑な関係性を持ているところが可笑しい。つまり、ウィリアムの知人や敵がクロスして関係した家族物語、としても楽しく読めてしまうところがこのベテラン作家の抜け目ないところなのである。
同時進行形の二人の強敵を相手取りながらも、前作を引き継ぐ(らしい)美術品の争奪戦が、未だ新たな局面を見せて丁々発止のコンゲーム的面白さを見せてくれるあたり、サービス精神と仕掛けに満ちた、まるでおもちゃ箱みたいなのである。
残酷で暴力的な犯罪と、善悪の闘いを描きながら、どちらのサイドにも癖のある個性的キャラを配置して、なおかつどこか楽しく笑えてしまう明るい表現には一度ならず苦笑を禁じ得ない。
主人公の未来を見据えた成長ストーリーを軸に、関係する家族それぞれの人生模様がシリーズらしさを匂わせつつ、最後には、とっておきのハイテンポでアクション満載のクライマックスに引きずり込んでゆくエネルギー。猫の目のように視点を変えるジェットコースターなみのスピード感を含めて、流石、手練の描写力というしかない。
巨匠による描写技術の粋を尽くしたエンターテインメント&スリラーの醍醐味を、是非とも手放しで味わって頂きたい。
(2021.11.09)
最終更新:2021年11月09日 17:54