警告 ジャック・マカヴォイ・シリーズ





題名:警告 上/下
原題:Fair Warning (2020)
著者:マイケル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:講談社文庫 2021.12.15 初版
価格:各¥900

 邦題は御覧のとおり『警告』なのだけれど、本書の主人公ジャック・マカヴォイが今、所属している消費者問題専門ニュースサイトの会社名が、実は原題の"Fair Warining"。本書でもジャックの所属会社名は「フェアウォーニング」とカナ訳されている。実はこのタイトルの仕掛けに気づいたのは、実は読書半ばのこと。原書読者は最初からそんな時差感はなしに読んでいるだろうから、老婆心ながら最初にここで触れておく。

 さてマカヴォイ主演作としては『ザ・ポエット』『スケアクロウ』に続く三作目。前作から何と11年ぶりの続編ということで、現実と同じように歳を重ねてゆくコナリー世界のキャラクターの例に倣って、マカヴォイは本作では58歳となっている。コナリー作品常連の元FBI捜査官のレイチェル・ウォーレスもいつものマカヴォイ作品と同じく巻半ばから共演を果たしてくれる。彼女はボッシュ・シリーズにもミッキー・ハラーのシリーズにもしばしば登場するコナリー作品ではお馴染みのキャラクターなのだが、本書でもよい味を出してくれる。

 コナリー作品はすべてがLAを舞台にした実際の時制で進行してゆくため、すべてのキャラクターが同時にコナリーのペンにより生を受け、同じ地平に存在しているという設定である。コナリーは生涯変えることなくそれを自身の作品特性として頑なに堅持している。コナリー作品のキャラクターたちの作中交錯は、全作を読んでいるディープなコナリー・ファンにとってはとても素敵なサービスであり、人間重視のその作風は必ずや心に響くのだ。

 さて本書であるが、さすが現実の時間に時計を合わせてくる作家であるだけに、非常に現代的なサイエンスをミステリーの道具立てに使ってきている。連続殺人事件の裏側で利用されてしまうのが、個人のDNA。そして主人公マカヴォイの所属するのはネットニュースの運営会社。スマホやPCを駆使する犯罪と捜査が、実に現代的で、最新テクノロジーに満ちている。

 この作家は、実はかく言うぼくと同年齢。明日まさに誕生日で否応なく緑寿を迎えることになるぼくと同い年の作家なのである。若いとはもうとても言えないコナリーが、最先端の科学捜査や、情報取得を犯罪手段とする新手の殺人鬼の物語をスムースに駆使しているのだ。個人的にもかなり刺激的な読書体験である。

 本作では際立った犯行の悪どさ(首を半回転させて即死させる内的断頭という容赦ない手口)に怒りを禁じえない主人公とその個人捜査トリオ。公的捜査組織に現在属していない者ばかりのトリオである。マカヴォイ、レイチェル・ウォーレス、そしてマカヴォイの仕事仲間のエミリー・アトウォーター。この三人の不屈の追跡劇が、微妙な男女三角関係のニュアンスと絡み合いつつ、最悪の悪党を追いつめる二重のハラハラ感。ページを開いたら最後まで止まらない一気読み必至の面白さは、コナリーならではの構成とキャラ設定とストーリーテリングゆえだろう。

 マカヴォイ・シリーズは現在のところたった三作だが、いつも極めてエキセントリックであるように思う。定年間近なマカヴォイではあるが、まだ退場には早すぎると思うのは、おそらくぼくばかりではあるまい。作者(とぼく自身)の年齢に追いついたマカヴォイに再会したいものである。

(2022.01.08)
最終更新:2022年01月08日 17:33