警部ヴィスティング 鍵穴




題名:警部ヴィスティング 鍵穴
原題:Det Innerste Rommet (2018)
著者:ヨルン・リーエル・ホルスト Jorn Lier Horst
訳者:中谷友妃子
発行:小学館文庫 2021.3.10 初版
価格:¥1,000


 『猟犬』『カタリーナ・コード』といい作品を連打しているのに、昨年のこの作品を見逃してしまっていた。今春、新作が出たのを機会に順番に読まねば、との反省読書。とりわけ前作から版元を変えて翻訳出版となった本シリーズは続けての未解決事件四部作である。『猟犬』からは、ヴィスティングの娘リーネの立ち位置、職業、家族環境等が変わっているので、四部作まとめて邦訳とは小学館さん、グッドジョブ! 

 また『刑事ヴィスティング』(ドラマタイトルは警部ではない)の旧作二作(『猟犬』含む)を取りまとめたドラマ・シリーズをWOWWOWオンラインで視聴することができたので、同時に楽しませてもらっている。原作とはイメージが異なるものの、日本の低予算TVドラマに比べると相当に秀逸の映像で、鑑賞に値する。本も動画も人気が出て、他の邦訳も進むと有難い。

 ちなみに『猟犬』では警察官としての職務停止中という境遇だったが、本作では何と、検事総長から直々の特命責任者を命じられ、好きなスタッフを集結させて極秘捜査の任務に当たるという、またまた例外的な境遇で物語をスタートする。このアレンジの幅は、本シリーズの特徴かもしれない。

 本作では、大物政治家が急死した後に遺された大金の謎を極秘裏に究明する任務をヴィスティングが与えられる。情報収集役としてフリーの記者である娘リーネの他、鑑識のモンテルセンを加えて捜査をスタートするが、徐々に事件の裏闇が広がる中、過去の事件の捜査責任者や、未解決事件を専門に扱う機関クリポスの捜査官スティレルも加わってゆく。

 過去を洗い出すと、空港での大金強奪事件、失踪事件、それに纏わりそうな未解決事件が繋がりを見せてゆく。一方で大金を回収した直後、政治家の別荘は放火される。という具合にヴィスティングが関わると、張り巡らされた導火線に一気に火が着くのは、本シリーズの特徴らしい。

 例によってページターナーぶりを発揮させながら、絡み合った複雑な糸のもつれを即席のチームワークで解いてゆくプロットの豊かさは並ではない。

 著者のホルストは、現職警察官として二十年のキャリアを持つという。その経験から生まれるストーリーには、現場リアリズムのような特性がおそらく顕著なのだろう。派手な事件と緻密な捜査、事件を探る個性的メンバーたちの勘どころなど、読むべき点、楽しむべき箇所が随所に見られ、飽きることなく身を任せられるストーリー運びである。

 人の個性をぶつけ合いながら、すべての謎と伏線をしっかりと回収してゆくエンターテインメントの完成度に拍手を送りたく思う。

(2022.4.13)
最終更新:2022年04月14日 13:01