警部ヴィスティング 悪意




題名:警部ヴィスティング 悪意
原題:Illvilje (2019)
著者:ヨルン・リーエル・ホルスト Jorn Lier Horst
訳者:吉田薫
発行:小学館文庫 2022.3.9 初版
価格:¥1,000


 本書は、連続少女強姦殺人の凶悪犯の逃走という、まるで大団円のようなシーンで最初の100ページが費やされる。最初から手に汗握る設定である。凶悪犯に付き添い、割りを食う役が、我らが主人公ヴィスティングであり、撮影役を請け負うフリーランスの記者であり娘でもあるリーネが、共に冒頭の一大アクションに巻き込まれるという仕掛けである。

 何者かにより、予め計画されたこの逃走劇には、スタン・トルネード弾までが使用され、複数の警察官の重症者も出る。責任問題と事件の収束と、どちらも双肩に背負うことになったヴィスティングは、世間の耳目を集めるスキャンダラスな脱獄ショーと、それに続く責任の重圧という悪夢のような時間を過ごすことになる。

 事件が起こり、誰が犯人かを見極め、解決に至るという、いわゆるミステリーの定番から大きく外れ、本書はいきなりアクション小説としてのスタートを切り、それらの緊張感を伴うままに、過去事件の真相を掘削するという荒療治を軸とする、緊張感に満ち満ちた力作なのだ。

 もちろん巻置く能わずのノンストップ・ストーリーなので、最後の最後まで、真相に辿り着くための迷路は続く。緊張を緩めることなく読まされてしまう超娯楽作品の仕上がりと言えよう。

 巻末解説にもある通り、現役捜査官であった作者ならばこそ、およそあり得なさそうなアクションと緊張の連続シーンを、リアリズムとして描き切ることができるメリットは大きいように思う。

 下手をしたら子供騙しに陥りがちなトリッキー過ぎる事件とその行方についても、警察捜査の経験という固い地盤を持つ作者だからこそ、説得力のあるプロットに落とし込めているように思う。

 父と娘と、さらにその幼い孫娘と、だれもが見えない危険に曝されながらのリスキー・ホームドラマの要素を巻追う毎に高めながら、本書でもスリリングなエンディングや、意外な真犯人という結末等々、いつもながらのドラマティックな盛り上げぶりで、安定のエンターテインメントを作り出している。

 映像化してほしいほどにスリリングなアクション作品なので、今後のヴィスティング・シリーズの躍動ぶりにさらに期待したい。本書でも、切れ切れの捜査官スティレルと彼を中心としたハイテクな捜査ぶりには、捜査小説の現代性どころか未来をも感じる。

 また、とりわけスマホやその他オンライン機器、カメラ、動画解析技術等々、ハイテク機器が事件捜査に与える影響や効果は、より加速しているように思われる。今年はWOWOWでも『CSIヴェガス』の新ドラマが始まったが、科学捜査技術の進化は速い。そうした新技術の作品への導入も1970年生まれのホルストならではの若さという特権と言えるかもしれない。未解決事件四部作最終作にも期待する。

(2022.4.13)
最終更新:2022年04月18日 15:57