誠実な嘘




題名:誠実な嘘
原題:The Secrets She Keeps (2017)
著者:マイケル・ロボサム Michael Robotham
訳者:田辺千幸
発行:二見文庫 2021.0
7.20 初版
価格:¥1,450

 例によって、二人の主役による交互独白で構成される作者お得意のストーリー・テリングだが、どうやらその手法は本作よりスタートしたらしい。

翻訳の少ない作家だけに、全体の作品情報も十分ではないところは残念なので、今後もこの作家の小説が読めるように、十分に応援してゆきたい。

 さて本作もいつもと同様、期待を込めてページを繰るのだが、実はかなり不安を感じさせられる。

 何故この作品だけ二見文庫なのだろう? これは果たしてミステリーなのか? ひょっとしてただの女性小説やロマンス小説なのではないのか? それらの不安を禁じ得ない出だしなのだ。

 巻半ばまでは、そんな不安に苛まれながらの疑心暗鬼状態で読書を進める。700ページ超えの長大な作品なだけにその不安は半端ではない。二人のヒロインの間に、ようやく事件とアクションが勃発するのが、半分を読み進めた辺りなのだ。これまでは長い導火線。

 しかしご安心あれ。そのアクションから先は、いつもの巻置く能わずのジェットコースター的展開となるし、これはしっかりとしたミステリー作品なのである。

 特に最後の100ページは怒涛の展開で、一気にスリル&サスペンスの波乱含みの面白さが待っている。むしろ最終ページへの雪崩込み部分は、凡百の作家とは相当に異質である。

 『天使』シリーズではないけれども、主人公の一人であるサイラス・ヘイヴンが、本作でも脇役として一足先に登場する作品。サイラスの過去である家族惨殺事件のこともその犯人のこともこの作品内で触れられていることには驚かされる。

 既に『天使』シリーズの骨格が出来上がっていたのか、本作でサイラスは、既にしっかりしたその人物像が練り上げられている模様。『天使』シリーズを読了している自分としては、そのプロローグ的デビューを果たしている様子と含みをもたせる個性にも楽しまされる。

 とは言え、ストーキングする女性と、ストーキングされていることに気づかぬままに、大きな事件に巻き込まれてゆく女性との交互ストーリーのリズムやテンポは、やはりこの作家の手練の技のもとにある。

 「常套手段に頼ったり、同じ物語を二度書いたりするような作家には決してなるまいと
懸命に努力している」と語るこの作家の姿勢にも期待感は高まる。是非とも全作品の翻訳を望みたく思う。

(2022.05.15)
最終更新:2022年05月15日 06:56