シャドウ・ストーカー
題名:シャドウ・ストーカー 上/下
原題:XO (2012)
著者:
ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文春文庫 2016.11.10 初刷 2013/10 初版
価格:各¥760
リンカーン・ライム・シリーズはニューヨーク。一方、このキャサリン・ダンス・シリーズはカリフォルニア。遠く離れた2つのシリーズなのに、それぞれのシリーズにそれぞれのシリーズ主人公がゲスト出演してくれる。このサービス精神がディーヴァーという作家の真骨頂だろう。本作でも、おそらく作家持ち前のサービス精神は、様々な意味で発揮されている。
今回は、若き女性カントリー・シンガーとそのファンのEメールのやり取りで幕を開ける。ファンと言っても度を超えればストーカーとなる。そのラインはおそらく場合により様々だが、無論ディーヴァー作品では、その場合とは、半端ではないデシベルだと思って頂いて構わない。
コンサートクルーの一人に最初の被害者が出る事件を機に捜査陣形が組まれ、そこに我らがキャサリン・ダンスが登場する。ダンスは人間嘘発見器。人間の行動や動きや表情や声音のパターンから真実を見抜くキネシクスという特殊技術を持つ捜査官。
コンサートを前にした人気シンガーと、ストーカーの対決構図は次々と起こる新事態により歪められ混乱し、善悪関係も不明確極まりない状況となってゆくのだが、それがディーヴァーらしいと言えばらしいのだ。
ライムとアメリアが応援に訪れ力を貸す一幕、二転三転の展開や入れ子構造による事件の重層化などなど、いつもながらサービス精神に溢れた作品であるが、何よりも本書の特徴は、ゲスト・ヒロインたるケイリーのカントリー音楽であろう。
彼女の作る歌は事件のキーワードにもなるが、それ以外にも多くの曲が、小説とは別に音楽の作詞活動にも熱心だというディーヴァーによって創作され、巻末には何とそれらの歌詞集が掲載されている。また、それらの曲は、実際にカントリー・ミュージシャンにより作曲・演奏・録音され、アルバムとして販売されるばかりか、ネットで視聴することもできる。
早速、YouTubeで検索視聴したが、なかなか良い曲ばかりで好感が持てる音楽集であることに驚かされる。ぼく自身、カントリー・ミュージックに詳しいとは言えないまでも、現役でカントリーソングをも含めたアマチュア・バンド活動をしているので、作中の音楽や楽器に関わるシーンが多い本作には、ディーヴァーの趣向が熱く込められており、ミステリー外の作家の素顔という部分の楽しみは格別だ。
創作上の歌手ケイリーを想ってまたこの曲集を聴くつもりだが、読後までこんなに楽しめるなんて何と予想外の作品であろうか! いや、それまたディーヴァーらしいよね。
(2022.05.20)
最終更新:2022年05月20日 09:35