彼女のかけら





題名:彼女のかけら 上/下
原題:Peace Of Her (2015)
著者:カリン・スローター Karin Slaughter
訳者:鈴木美朋
発行:ハーパーBooks 2018.12.20 初版
価格:各¥889

 シリーズ作品だけでもチェイス大変なのに、独立作品をいつ読むのか? 今でしょ!
入院は積ん読本を読むには絶好の機会なのだ。

 しかし病気で入院してるのに、何故、暗い不健康な本を読まねばならないのだろう。本作は、ある意味、覚悟し、さらに予期していた通り、そんな不健康さでいっぱいの悲劇大作なのだった。

 いきなりのテロシーンで物語は始まる。ナイフ片手の無差別殺人鬼にあわや殺されそうになるヒロインを母が救い、さらに返り討ちにするという衝撃の幕開けだ。知らなかった母。娘の立場から描かれる現代と、母の思いもよらぬ過去の物語が交互に語られる。

 過去の物語の中心人物たちはまず名前そのものも異なるので、すんなり今と結びつくわけではないのだが、国際テロ集団の離合集散の暗い時代とその緊張感が半端ではなく語られてゆく。

 現在と過去が容易に結びつかない中で最後まで持ってゆかれる物語には相当やきもきさせられるものがあるが、そこの紆余曲折が本書の読みどころであり、現在のヴァイオレンスからの脱出路の出口に繋がってゆくので、戦後国際テロを背景とした母と娘のサバイバルを、いつものようにスローター節で味わいたい。

 血とバイオレンスと男と女。そして壮大な旅として俯瞰される家族の物語は、いつものスローター節なのだが、あまりにも引っ張リ過ぎなラストのキレの悪さが、好印象には繋がらず、残念。

 Netflixでドラマ化されているとのことなので、そちらも要チェックであること間違いなし。

(2022.05.26)
最終更新:2022年05月26日 20:09