丘の上の賢人 旅屋おかえり
題名:丘の上の賢人 旅屋おかえり
作者:原田マハ
発行:集英社文庫 2021.12.25 初版/2022.6.6 5刷
価格:¥580
元キュレーターで美術の造形が深い作者であるが、この旅屋という稀有な職業のヒロイン丘えりかのシリーズは、ぼくは作者を知らず先にドラマで見てしまい、安藤サクラがはまり役だなあと気に入ってしまった。秋田編と高知編を満喫したのだが、さらにドラマは長野編と兵庫編が製作中とか。
一方で原作の方もこうして番外編としてであれ、わが北海道が舞台となる本書が出版されていたので、遅ればせながら読むことにしてみた。原作とドラマはもちろん異なるけれど、丘えりかというヒロインの妙に明るい三枚目的魅力はあまりドラマとの違和感もなく、随所に感じられる旅情ともども魅力的な物語を奏でてくれる。
さらに丘えりかは礼文島生まれで北海道への旅だけは自分に禁じていたというが、その裏面のプライベートストーリーもこの作品には込められていて、なお一層の深みを感じさせてくれる。
最初に小樽を、そして札幌を取材する丘えりかだが、バックとなる音楽がある。そう、この作品の主題歌は何と言ってもビートルズの“Fool On The Hill”なのである。<丘の上のバカ>ではなく、<丘の上の賢人>であるのは、本書を読んでのお楽しみ。でもビートルズへのオマージュは多分に感じられるぼくには同世代的小説として、じんと来ていました。
なおこの作品で丘の上というのは、実はぼくにとっては近所と言えるモエレ山のことである。ああ、驚いた! そういえば本シリーズは、元キュレータ-作者である
原田マハの美術蘊蓄があまり見受けられないのではと思いきや、何とモエレ沼公園自体が、イサムノグチという作家の壮大な美術作品であるではないか。やはりこの作品は
原田マハの美術関連小説であったのだ。
小樽の旧金融街や港の情景も美しいが、モエレ沼公園は本書では大役を果たす。何と近しい場所がこのシリーズに登場してくれるのだ。嬉しさ百倍! である。
さらに札幌・帯広に旅する作者の紀行エッセイも面白い。特に六花亭オタクであったとは(笑)! 最後に漫画も付いています。何やかんやと楽しいサービス満点の一冊。お買い得ですよ!
(2022.08.03)
最終更新:2022年08月03日 16:49