YOUMING TRIBUTE STORIES
題名:YOUMING TRIBUTE STORIES
作者:
小池真理子・
桐野夏生・江國香織・綿矢りさ・柚木麻子・川上弘美
発行:新潮文庫 2022.7.1 初版 2022.7.15 2刷
価格:¥1,650
DUOバンドを組んでいるピアニストの女性からお借りした何冊もの
原田マハの本の中に、この本が一冊入っていた。DUOに限らず、ともに所属する地元バンドも含め、ユーミンの曲はぼくらのレパートリーにいくつも入っている。彼女はユーミンが好きなのだ。
そしてこの本に作品を提供した6人の女流作家たちもユーミンが好きなのだろう。この本は、それぞれの作家が、ユーミンの曲をテーマとして書いた短編作品を集めた一冊であり、さらにこの試み自体が、ユーミンのデビュー50周年を記念したものであるという。
ぼくはユーミンがデビューしたニューミュージック時代は、大学生だった。その頃は、特にその種のジャンルにぼくは興味を持ってはいなかった。どちらかと言えばフォークソングの末期世代と、ウッドストックを賑わせたアメリカのロック・ミュージシャンに熱を上げていた。お洒落な新しいニューミュージックのジャンルもそれを歌う男女新しいシンガーたちにも、なかなか慣れることができず、ただただ古い音楽が消えてゆくのを悲しんでいたように思う。ウォークマンという楽曲を鳴らす秘密兵器が世界に登場した頃のことだ。
当時ぼくが所属していた大学音楽サークルは、アメリカン・トラディッショナル・フォークソングの同好会だったが、スイングアウト専門の会なので、個性の発出が見込めぬことへのストレスが溜まり、ぼくは一年と持たなかった。ぼくはずっとウエストコースト・サウンドや
ブルースを聴き続け、演奏の方は自らのオリジナル曲に偏りつつあった。
でもその後、半世紀も経った今は、ユーミンのいろいろな曲を耳にし、自分もその曲をあちこちで演奏するようになり、ユーミンという歌手の才能に相応の敬意を払うようになったし、彼女の音楽は総じて演奏して楽しく、メロディも歌詞も優れた才能に裏打ちされたものと今では強く評価している。ごく当たり前のことみたいに。
但し今もユーミンの楽曲のすべてに詳しいわけではなく、本書の作品タイトルはすべてユーミンの曲名で出来上がっているのに、知っている曲は数えるほどである。なので、作品に取りかかると同時に、改めてネットで検索したタイトル曲を視聴した。作家の年齢もまちまちだが、それぞれの時代の作家にタイトルとして選ばれた曲もまちまちなので、アルバムを聴くようにしてこの本を楽もうと割り切った。
この本の中には未読の作家も多く、主要作で知っていたのは古くからミステリの分野で活躍してきた小池真理子と桐野夏生くらい。なので、やはり二人の作品が結果的にも一番心に来る。
但し短編集の構成として面白かったのは川上弘美の作品かな。最もトリビュートが具体化された作品だったし、短編集の最後を飾るのが、苗場のユーミンのコンサートというクライマックス感もバランスが良いと思う。
自分ではまず読むはずのなかったこの稀有な作品集を読む機会をぼくに与えてくれたバンド仲間であるユーミン好きのピアニストには、改めて感謝である。
(2022.10.07)
最終更新:2022年10月09日 11:25