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夜のジンファンデル



題名:夜のジンファンデル
作者:篠田節子
発行:集英社 2006.08.30 初版
価格:\1,500

 いろいろな作風を持つ篠田節子だが、本来興味を持ってしまうのは不思議小説家としての篠田節子である。ジャンルで言えばホラーとなるのだろうが、とりわけホラー小説が好きなわけでもない。感染の恐怖と役所の取り乱し様を描いて楽しかった『夏の災厄』は、ホラーでもなんでもないし、まるでクメール・ルージュなみの革命に巻き込まれた日本人主人公が『キリング・フィールド』なみの脱出に挑戦する『弥勒』、超常能力を持ったネパール人花嫁をテーマにした『ゴサインタン -神の座-』にしたって。しかし、いずれも異常な小説であることには変わりがない。やっぱり不思議小説作家としての篠田節子。いつも何を書いても「異彩を放つ」という表現がこれほど似合う作家は、なかなかいない。

 そういう作家であればこそ、短編の味わいも捨て難いものがある。『レクイエム』や『青らむ空のうつろのなかに』などの短編集は、とりわけ、ホラー、SF、不思議小説といったカラーが強かったが、本書はそのカラーを受け継いだ不思議短編集である。

 怖いストーリーは本当に怖く、グロいものは徹底してグロく、美しいものは美しく儚く悲しく、とまさに篠田節子という作家的表現力の引き出しの多さに引きずり込まれる、外れのない作品集である。とりわけ最近の作品である『恨み祓い師』は怖かった。この世を恨み人生を悔いる老婆の姿や、時代や家族の犠牲になって自分をついぞ幸福にできなかった女の一生などを、こうして言葉にしてみせると、何とも怖い。小説のようなカタルシスがない世界が現実の側にきっとあると思えば、小説の持つ救済の力ということが、改めてわかる気がする。

 『コミュニティ』というのは、家族の解体を逆の搦め手で捩じ伏せた印象のある、けっこう黒い物語だが、女性作家ならではの日常生活のリアルさ、そこから異質な時空に少しだけ踏み出してゆく語り口の上手さなど、かなり完成度の高い短編作品であるように思う。

 海外の短編作家であるローレンス・ブロックなみの面白い短編を書く作家というのは、実は生真面目すぎる日本文壇にはあまりいらっしゃらないような気がするのだが、この作品集を読んで、改めて篠田節子の鬼才ぶりに、考えを変えたくなった。オットー・ペンズラー編纂にアンソロジーに取り上げてもらっても、ぼくは全く異論がない。

(2007/02/04)
最終更新:2007年02月04日 23:15