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スクール・デイズ



題名:スクール・デイズ
原題:School Days (2005)
作者:ロバート・B・パーカー Robert B. Parker
訳者:加賀山卓朗
発行:早川書房 2006.12.15 初版
価格:\1,900

 このシリーズをこれまですべて通して訳してきた菊池光氏が、2006年にひっそりと亡くなった。翻訳者の死は目立ったニュースにもならなかったから、本シリーズとディック・フランシスの競馬シリーズ(祝再開!)ともに、翻訳者が変わったことから、私的に調べた結果ようやく明らかになった。日頃海外作品を翻訳者の文章によって楽しんでいながら、翻訳者という縁の下の力持ちの存在を軽視している自分が恥ずかしくなった。殊に、ギャビン・ライアル『最も危険なゲーム』、ヒギンズ『鷲は舞いおりた』、トマス・ハリス『羊たちの沈黙』など、冒険小説のメモリアル的傑作の訳出は、印象に深い。

 その後を継ぐのが加賀山卓朗氏ということで、デニス・レへインやフィリップ・マーゴリンという作風とは全然違った大御所作家ロバート・B・パーカーのシリーズをどう引き継ぐのか、期待と不安と二つ我にあり、といった心持ちである。

 しかしこれだけ特徴のある翻訳である。今は、女性探偵サニー・ランドル・シリーズの方を奥村章子氏が訳しているが、こちらも菊池訳とは全く違う調子ながら女性一人称という土台異なる文体ゆえか、さしてその移調が気にならない。しかし、本シリーズと、寡黙な警察署長ジェッシイ・ストーンのシリーズに関しては、どちらも菊池節が濃厚だっただけに、引継ぎが気になる。増してや、2月下旬発売予定のジェッシイ・ストーン・シリーズ新刊『訣別の海』は、加賀山氏ではなく、近年エド・マクベインの87分署シリーズを手がけてきた山本博氏というこれまた早川書房常連の訳者によるものであり、二人の翻訳者対決の成果もまた気になるところである。

 翻訳者の交代は、違和感をもたらさないわけではない。最初はやはりスペンサーのぎごちなさに少しむずむずしたものが残らないわけではない。だが、加賀山氏も書いているように、菊池訳の真似ではなく自己流でしっかり訳すという姿勢への好感は、なるほど感じ取られ、ページを繰るとともに馴れが違和感を消化していったようで、とりあえず安堵する。

 さて今回の特徴はスーザンが出張旅行中で不在であること。ホークもまた不在であること。読者にはただのなまけものにしか見えない犬パールだけが取り残され、この犬の世話をしつつ依頼された事件を追いかけるというあたりも特徴と言えるかもしれない。

しかし犬と人間の関係ほど主観的で、他人から見るとばかげていて、うざったいものは他にない。自分が犬を飼っていた当時は主観を主観と割り切れていた時代なので、人様に我が犬との愛情なんて絶対にひけらかさなかったものだ。むしろ他人には自分の連れ歩く犬の存在は迷惑なんだろうなと自覚していた。そんな微妙な神経戦が作中でもいろいろと書かれていて、スペンサーもスーザンもパールのことになるとただの親馬鹿だなと思えてくる。探偵と犬、という取り合わせは、アンドリュー・ヴァクスのバーク・シリーズの方が、遥かに実用的な関係を保っていると思う。バークにとってパンジイは戦友であり、武器であるから。

 今回は学校における銃の乱射事件。アメリカでも世界のテロ地帯でも日本でも(日本では刃物だが)ニュース素材として扱われるようになった光景だ。探偵のシリーズに登場するほど珍しくないものとなったかと思うと、ちょっと絶望的な気持になる。中でもアメリカで発生する事件は、生徒が生徒を殺すという事件が特徴的であり、今回スペンサーが対峙する相手はこういう種類である。

 しかし、学校にはどこの国にも魔がある。続けざまに東直己『後ろ傷』、誉田哲也『月光』と、いずれも学校で起こった事件を扱ったミステリーを読んできて、この作品が三作連続スクールものというのは、作為的なチョイスではなかったはずだが(内容を知らずに読んでいるからね)、偶然とは言えない教育の現場の荒廃や無法化を思わせる時代背景の存在を嫌でも意識させる。昨年読んだ香納諒一の『冬の砦』は、さらにそのあたりを掘り下げた傑作であったな。いつでも傷つくのは生徒たちであるということは、どんな小説でも変わらない。

 スペンサー・シリーズといえば、少年を扱った作品『初秋』があまりにも有名だ。あの作品が書かれた1980年からこっち既に四半世紀を過ぎており、スペンサーもスーザンもホークも物語の都合上、大して歳を取らないが、少年たちの抱え込む闇の深さは、いっそう複雑さを増してきたかに見える。

 もっとも、このシリーズはある意味でスーパーマンみたいなシリーズである。どんな複雑な難問も解決できる知力と、何よりもどんな強敵でものしてしまう腕力を備えた探偵が事件の質をきちんと変えてくれる。酷薄で不条理な風に見える事件の真相がどうであるのかまでは、さすがにここでは言えない。

(2007/02/04)
最終更新:2007年02月04日 23:32