私の唇は嘘をつく
『
プエルトリコ行き477便』が、二人の女性の運命の糸がクロスする面白さにツイストを入れて、面白かい読み物だったので、続いての本書も迷わず手に取る。二見書房と言えば女性
ロマンス路線の文庫なのだが、この作家は従来の狙い通りの女性読者層はもちろん、さらにすべての読者層に受け入れられておかしくない実力派の書きぶりを見せてくれる。
前作と同様に二人の女性の一人称で語られる二つの世界。一人は、不幸な過去を持つ女性詐欺師で、もう一人は彼女に復讐心を抱く駆け出しジャーナリスト。どちらの一人称もぐいぐい読ませる。その運命の交錯のデリカシーさや、それぞれの女性が抱える秘密の事情もページを繰る毎に次第に明かされるのだが、現在と過去の時間を往来しつつ、さらに視点の転換も微妙に関連しつつ、読者は次第に二人の女性の人生と性格と行動の理由をつかみ取ってゆく。
この構造はやはりこの作者特有のものなのか? 続く作品も全部このスタイルでやってしまってもいい。あるいはそこに期待させる面白さを持つのがジュリー・クラークという作家の優れたオリジナリティなのかもしれない。二作とも、ちょっとした凄みを感じてしまったのは、一人称描写の見事さ、そしてそこに仕掛けられたいくつもの謎。すべてを操る語り口、といったところである。
日本語化された文章力にも無理がなく、、、、と思ったら、何と、この翻訳者は翻訳ミステリー読書会世話人の小林さゆりさんではないですか。コロナ中もZOOM読書会では何度もお世話になりました。それにしても、難度の高いこの手の作品をこうもスムースに読ませて頂けて有難い限り。
作品では不動産詐欺に関わる悪辣な手口が出てくるのだけど、それらへの怒りをどう収めるかというのも、読者の興味を引くところ。ヒロインの一人がさらに狡猾な詐欺師である点がポイントである。詐欺師が、詐欺師へ復讐するという人生を賭けた長大なドラマという構成に辿り着くるまでの語り口の見事さ、展開のスピーディさも読後に感じさせる読書的快感に繋がってゆく秀逸なストーリー。
昔はお世話になったけれど最近ではあまり手に取ることのない二見文庫だが、この通りの凄玉ミステリ、今年もやってくれました。拍手!
(2023.05.13)
最終更新:2023年05月13日 17:17