幸運には逆らうな





題名:幸運には逆らうな
原題:Soldiers Of Fortune (2015)
著者:ジャナ・デリオン Jana Deleon
訳者:島村浩子
発行:創元推理文庫 2023.8.31 初版
価格:¥1,100

 「ワニ町」シリーズいつの間にか6作目。シリーズは3作ほどを区切りにして、その後翻訳出版打ち切りなんていうことがままある。出版社を変えて別の翻訳者で再開、なんて版権の移動もあったりするから、翻訳ミステリーのシリーズものは心配だ。しかし、本シリーズは人気があるらしく、きちんと翻訳が続いているし、打ち切りの話もまったく出てこない。ストーリーも良いが、翻訳小説とは思えないほど、日本語訳の文章も素晴らしいシリーズだと思う。

 さて前作から続いて、保安官助手のカーターは未だ完全復活ならず。それもそのはず毎年一冊ずつ読ませて頂いているぼくらとは違って、作中では一日二日くらいしか経過していないのだから。ひょっとすると、6作目でなおフォーチュン到着後一ヶ月くらいしか経過していないのではないか? そして選挙の結果、最も嫌なキャラクターとも言えるシーリア新町長が君臨を始めようとしているシンフルの町。まだまだ落ち着かぬ様相を見せる状況のなか、我らがトリオは健在どころか元気を増すばかりで何とも頼もしい。

 凄腕の暗殺者から逃れるため正体を隠し普通の女の子のようにして潜んでいるが、実は経験豊富なCIA秘密工作員であるフォーチュン。ベトナム従軍経験を今も活かしているアイダ・ベルとガーティのお婆ちゃんコンビ。以上、三人の戦闘経験豊富な隠れ兵士トリオが毎作活躍する本シリーズである。リーダーシップを持つアイダ・ベルと、とにかくアクション好きで乗り物好きだがその行動がいつも危なくてたまらないガーティという、二人の婆ちゃん戦士の協力の元、フォーチュンは新トリオ体制の元、理不尽と独裁が進もうとしているシンフルことワニ町の平和のために獅子奮迅の活躍を果たしてゆく。

 孤独な工作員であったフォーチュンがこの町に来てから、休むことなく事件が起こるし、その発生間隔はわずか数日から一週間という忙しさ。前作から本作までもニ三日しか経っていないというこの濃密で忙しい町。政治や利権を乗っ取ろうと企む悪党たちと、その支配を許さぬとばかりにかつての戦闘技術を駆使せんとするおばあちゃんズ+フォーチュンの主人公トリオ。

 当面の的をやっつけても、まだまだトリオは出塁を余儀なくされるだろう。全快にはまだまだ及ばないカーターがベンチを温めている時期はいつまでだろう。予断を許さぬ今後の展開も、また楽しみでたまらない本シリーズ。ますます高まる期待と安定した面白さに満足の一話でありました。

(2023.12.30)
最終更新:2023年12月30日 16:10