血塗られた一月
題名:血塗られた一月
原題:Bloody January (2017)
著者:
アラン・パークス Alan Parks
訳者:吉野弘人
発行:ハヤカワ文庫HM 2023.06.25 初版
価格:¥1,420
訳者で本を選ぶ。ぼくにとっては珍しくないことだ。翻訳家の方は依頼されて訳す仕事もあれば、翻訳者自らが押しの作品を出版社に提案することで自分の仕事を作ることもあるらしい。本書の訳者である吉野弘人氏と言えば、ロバート・ベイリーの胸アツ作品群で知られる方なので、遅まきながら気になった本書を手に取る。
本書はグラスゴーを舞台にしたスコットランド・ミステリー。背カバーには<タータン・ノワール>とあるが、タータンとはタータンチェックのことなのだね、なるほど。舞台も1973年と半世紀前なのである。アイルランドを舞台にしたエイドリアン・マッキンティのショーン・ダフィ・シリーズに少し似た熱い感のある本シリーズ、主人公は法律破りもものともしないハリー・マッコイ。一匹狼の気配のある前者に比して、こちらは悪っぽい主人公刑事の背後に優等生的若手刑事ワッティーがつきまとう。この凸凹コンビが、実はつかず離れずのいい感じのコンビで何ともいい感じの雰囲気を作品全体に与えるである。
本書の事件は刑務所で始まる。ある少女が殺されるという囚人の予想に端を発し、その件の少女は少年に撃たえ、少年自らも頭を撃ち抜く。予告者であった囚人も同時に刑務所内で殺害される、と緊張感いっぱいの状況で開幕。ミスリードあり、
裏切りありのシナリオに翻弄されつつ、グラスゴー警察のハードボイルドさに痺れながらの緊張感いっぱいのシーンが続く。
古いあの時代、作中にはデイヴィド・ボウイやフェイセズ在籍中のロッド・スチュワートが登場。ドラッグと貧困の風が吹き抜けるグラスゴーの夜の描写が凄い。どう見ても病んでいるとしか言いようのない都市の裏路地。底に生きる悪党どもの描写が際立つ。しかし、汚れた街をゆくのは高潔な騎士ではなく、本シリーズ主人公のハリー・マッコイだ。完璧とはおよそ言えぬ弱みを見せる性格。孤児院という名の掃きだめからやって来た天性のデカ(刑事)にも見えるし、孤児院で塒を同じくした一人は闇ギャングのボス。我らがヒーローの愛人は何と薬中の娼婦。どう見てもまともではない主人公設定だが、だからこそ貫ける意地の捜査が見ものである。
それでいて、われらがダーティ・ヒーローの熱源は怒りと優しさなのだ。法に準拠しないはみ出し捜査も魅力的だ。何とも70年的なヒーローなのである。どん底から這い上がってきたヒーローが、巨人ゴリアテのような悪党どもを叩きのめすストーリーのプロットが何ともアクロバティックでスリリングこの上ない。ブラックな手法も辞さないこの古くて新手の主人公に打ちのめされた。
タイトルの通り「一月」にスタートした本シリーズは、訳者あとがきによれば現在6作まで書かれているらしい。順次翻訳が進むことを期待したい。本作、半年前の出版時に読んでいれば、間違いなく『このミス』の6作にも推したのだが、読み遅れてしまったのが我ながら惜しまれる。第二作にも期待。次は逃さぬ!
(2024.01.27)
最終更新:2024年01月27日 15:47