暁の報復



題名:暁の報復
原題:Vicious Circle (2017)
著者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:創元推理文庫 2024.6.28 初版
価格:¥1,300


 毎年、一作楽しみに待ち焦がれるシリーズ新作が今年も順調に登場。現代の西部劇。最近、海外旅行に出たり、Liveとその練習に時間や気持ちが優先されて(←言い訳)、こんなに愛読しているシリーズ作品を、今頃読んでいる。さて本シリーズは、そもそも単独完結作品として書き継がれてきたように思うが、時には複数作品を通して連続感のあるストーリーも増えてきていると思う。

 初期の頃は「荒野のディック・フランシス」などと呼ばれて、読者としてもなるほどいいキャッチコピーだと納得していたものの、やはりフランシスのように毎作異なる主人公・異なる設定ではない。フランシスは設定を変えても、すべて同じハイ・レベルでのハードボイルド感を表出してきた稀有な作家ではあるが(無論ぼくは全作読破済み)、こちらのボックスの方は同じ登場人物が生きる同じ世界に、時間軸に沿って描かれる家族ドラマであるから、今ではディック・フランシスのイメージからは完全に独立した領域で息づいている好調なシリーズと言えるだろう。

 さて本作は、前作までの流れを継いでさらに残酷さを前面に出してゆく敵役ダラス・ケイツとのファミリーが復讐に燃えてピケット家に執拗な攻撃を加えてゆく過程で、さらに複数の犠牲者を出してゆき、さらにはピケット家にまで脅威が及んでくる、それもじわじわとではなく一気に、と、あまりに惨憺過ぎるのではないかというくらい残酷な攻勢によって前半が埋められる。やられっ放しで読者としても腹立たしくなるくらいのタメなのだ。

 何故、ダラスが出獄できるんだとか、彼の連れ歩いている刑務所友だちたちはどこから湧いてきたんだよ、とか不平不満がふつふつと湧いてくるのだが、これも作者の思い通りに操られる一種の快感と言えないこともない。どうせ最後にはいつものように悪漢たちをまとめて、荒野のヒーロー、ジョー・ピケットがやっつけてくれるとの確信のもとに読書を進められるのは、言われてみれば、そう、ディック・フランシスとおなじ構図かもしれない。

 それに本シリーズのサブ・ヒーローとも言えるネイト・ロマノウスキの存在もある、と思いきや、本作では彼の存在は重要なインパクトを遺すとは言え少し薄めかも。その場合は次の作品への期待感がまた高まったりするのだが、そういう複層構造になるのもシリーズが長く安定してその面白さを維持しているおかげなのだと思う。本当に細かいところまでしっかりと組み立てられているのがこのロング・シリーズの凄さなのである。

 本シリーズでは、作品毎に時間が過ぎ、ピケットの周囲の常連キャストはもちろん、幼かった娘たちもどんどん育っては事件に巻き込まれたりして行くなど波乱に満ちたサブ・ストーリーを提供してくれているので、この先本シリーズがどう展開してゆくのかは予断を許さないが、『ブルー・ヘブン』のような評価の高いシリーズ外独立作品などもまた書いて頂けると嬉しい。これからこのシリーズを読み始める方は、できれば最初から読むことをおすすめするが、途中のどの作品であれ、単独でも面白さを十分に味わって頂けると思うので、是非ピケット・ファミリーの魅力を体感して頂きたい。

(2024.10.19)
最終更新:2024年10月19日 09:14