不死鳥は夜に羽ばたく
題名:不死鳥は夜に羽ばたく
原題:The Phoenix Crown (2024)
著者:ケイト・クイン&ジェイニー・チャン Kate Quinn & Janie Chang
訳者:加藤洋子
発行:ハーパーBOOKS 2024.9.25 初版
価格:¥1,370
毎年一冊邦訳されるペースで、しかも間違いなく傑作で力作と言われて恥じない作品を供給し続けている女流作家ケイト・クイン第五作の本書は、何と台湾生まれの歴史小説家ジェイニー・チャンとの共作である。毎作、歴史に材を取りながら、驚くべき着眼点に驚愕させられっ放しのケイト・クインだが、本書では1906年サンフランシスコで実際に起こった壊滅的大地震を背景に、権力の刃を振るう実業家の許し難き犯罪と、震災後パリに舞台を移した四人の女性たちによる復讐劇を描き切った、いつもながら骨太の歴史冒険大作である。
着目すべきは、本書がケイト・クインとしては初の二人の女性作家による共作であること。オペラ歌手になるという壮大な夢を抱えてサンフランシスコにやって来るジェマ・ガーランドと、チャイナタウンに暮らし身売り同然の結婚を強いられ打開を図ろうとする洗濯屋の娘フェン・スーリン。この全く出自も性格も異なる
ダブル主人公を二人の作家が交互に描くことで、大地震を契機に結びつく四人の女性たちの友情と、震災後、パリに舞台を移した復讐劇の壮大な流れを見せる、いつもながらの骨太な国際冒険小説なのである。
着目すべきは、ジェマを描くケイト・クインと、フェンを描くジェイニー・チャンという本邦初披露の作家による二大実力派女流作家による共演であろう。全体はこれまでケイト・クインが書いてきた4つの戦争大作を引き継ぐ歴史小説のネジをさらに巻き戻した大戦前夜の物語でありながら、戦火の代わりに歴史的大火によって壊滅的打撃を受けるサンフランシスコの様子を、リアルな筆致で、しかも四人の女性の運命を決定づける劇的要素を加えつつ描き切る二大作家のストーリーテリングが何とも魅力的であることだ。
要するにこれまでケイト・クインを読んできた読者を全く裏切ることのない同レベルか、またはその上をゆきそうな勢いを持った作品であることは間違いない。つまり、ジェイニー・チャンもこれまで邦訳作品は未紹介ながら、ケイト・クインと同レベルの凄腕作家であるということである。そうでなければこのような共作はそもそも存在しなかっただろうけれども。
震災前のサンフランシスコのチャイナタウンの活気とそこに息づく移民たちの生活ぶりは本作品の魅力的なところである。主人公少女は洗濯屋の娘でありながら、男の子のような姿で活気あふれるチャイナタウンを駆けまわる彼女は叔父の命により勝手な結婚を迫られている。地震を契機にそれまでの生活から脱け出すべく奔走する彼女もまた大地震を目の当たりにして、オペラ歌手を夢見るジェマと出会い、女性たちを食い物にする大悪党のヘンリー・ソーントンとの対決構図を築いてゆく。二人の主人公に女性脇役二人がさらに加わり、個性的な女性四人チームによる復讐劇は、対決の州着地であるパリへと舞台を移してゆく。
いつもながらのスケールの大きさと、女性作家らしく繊細な小道具と、熱い友情や復讐心。それらのケイト・クインらしい作品の骨太ぶりが、共同作業となってもいささかも変わらない。そんなことからコラボレーションの片翼となったジェイニー・チャンという作家への信頼と興味が嫌でも疼いてくる。共作という新鮮な試みを経て二人の作家活動が今後どのようにぼくらの下に次なる新作となって届けられるようになるのか、期待とともに楽しみにしてゆきたい。
最終更新:2025年01月15日 19:00