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墓場なき野郎ども



題名:墓場なき野郎ども
原題:Classe Tous Risque (1958)
作者:ジョゼ・ジョバンニ Jose Giovanni
訳者:岡村孝一
発行:ハヤカワ・ミステリ 1970.11.30 初版
価格:\450

 妻がぼくの蔵書を整理し始めている。具体的に言うとメルカリで売っている。その対象に古いポケミスもあったもので慌ててチェックすると、未読の本書があったので何とか救済して読み始めた。ジョゼ・ジョバンニと言えば自らも犯罪者で投獄されていた人が、経験を題材にして小説を書き始めたところ、その才能が認められ大勢の読者を獲得したばかりか、映画化されフランス映画の軸ともなったフィルム・ノワールの歴史にその作品が強く刻まれた作家として知られている。ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ジャン・ポール・ベルモンドなどの俳優を世界に広く知らしめる基となる作品を創り出した作家である。

 本書がフランスで出版されたのは1958年。ぼくが1956年生まれだから、どれだけ古い作品であるかを思うと「戦後」という言葉しか出てこない。その時代の作風というのは、本書を手に取ってみると今の作品の書かれ方とはおよそかけ離れたものであると感じる。いわば天衣無縫。ルール無し。作者の感覚や経験によって作り出される、ある意味現実をベースにしているとは言え、犯罪者たちの欲望と裏切りと恋愛とがあざなえる縄の如く複雑かつ奇抜にかつ運命的に絡み合うストーリーである。

 奔放とも見えるストーリーは、複数の主人公たちが第三者的に描かれることで、カオスを成しているかに見える。猫の眼のように変わる場面や人物の心情描写が、一種の群像劇を思わせる。映画ではリノ・ヴァンチュラやジャン・ポール・ベルモンドが主たるキャラクターの役をこなしているらしいが、ぼくはこの映画を観ていない気がする。同じジョバンニの作品ではぼくは強烈な印象を受けた映画をいくつか見ているのだが。『冒険者たち』『気ちがいピエロ』『穴』『オー!』『ラ・スクムーン』『ル・ジタン』。なのに、本書は映画を観たという記憶がない。

 そして今の小説を読みなれた目には、この作品はあまりに奔放に見える。主人公が誰なのか掴みにくく、それも掴んだところで二人の主人公なのかと思われる。内容は誰もが犯罪者であるということ。まっとうな人生とは魔反対の裏街道を生きる、そして死んでゆく者たちの、苦しくも空しく、一瞬の煌めきを帯びるような犯罪者たちの暗黒世界。生活をしてゆくための悪。そして貧しさ。奔放さ。さらに暴力による解決。

 地を這うような若者たちの危険な生き方が紡ぐ非日常世界的なもの。作者がそもそもそうした犯罪者であったことから奇妙な運命によって生まれたフランス暗黒小説の歴史の一幕が、スライドのように写される現在にはなかなか味わえない表現による本作は希少であり、貴重な読者体験をもたらしてくれたものである。

(2025.12.21)
最終更新:2025年12月21日 13:21