アットウィキロゴ

夜明けまでに誰かが




題名:夜明けまでに誰かが
原題:Five Survive (2022)
著者:ホリー・ジャクソン Holly Jackson
訳者:服部京子
発行:創元推理文庫 2025.7.31 初版
価格:¥1,400


 ピッパ・シリーズの骨子は三部作であるけれど、その後に発表された前日譚と併せての四部作と言ってもいいだろう。そしてYA(ヤングアダルト)小説と言うには黒すぎる内容、衝撃的過ぎる残酷さを併せ持つホリー・ジャクソン・ワールドは、初のシリーズ外作品とは言え、このあまりに衝撃的な新作でもしっかりと展開されるのである。前作までと同様にイギリス人女流作家でありながらアメリカを舞台にストーリーを展開。ましてや、本書は一夜のできごと。そして舞台は動かず、真夜中の田舎道で動けなくなったキャンピングカーだけで展開する。舞台化するには最適なストーリーであり、それを狙ったわけではないだろうが、いずれ舞台化してもらっても十分に味わい深いだろうと思えるアクロバティックな仕掛けに満ちた一作である。

 作品全体を通して登場するのが、高校生4人と大学生2人の一行。道に迷って踏み込んだ田舎道、キャンピングカーのタイヤが四つとも狙撃者によって撃ち抜かれることから物語は始まる。狙撃者は誰なのか? 狙撃者は何人いるのか? 誰がその標的となっているのか? 狙撃者の狙いは何なのか? 6人の登場人物だけで一夜だけのスリリングでミステリアスな物語を進行させるという、この作家ならではの力技が本書では炸裂する。

 初のシリーズ外作品ながら一気に読者を物語に巻き込んでゆく腕並は、この作者ならではのものである。6人の登場人物のそれぞれに個性やヒストリーを持たせながら、彼らの疑心や葛藤を含ませた会話、行動を描きながら、狙撃者への恐怖に包まれた一夜の濃厚でスリリングな時間を描いて500ぺージ余。のっけから最後までずっと持続する緊張感。その中で徐々に浮かんでくる各自の個性、微妙な人間関係とその裏側に潜む隠れたストーリー。

 なぜこの状況に彼らが陥ったのか? かれらはどうやってこの状況に決着をつけるのか? 解決への難易度の非常に高そうな緊張空間を作り上げて、なおかつそれぞれの葛藤を浮き彫りにしつつタイムリミット・サスペンスと、孤立し情報のない一夜を凄す荒野の6人を描く力業とも言える状況小説に、読者はページを繰る手が止まらなくなる。

 ホリー・ジャクソンは不思議な作家である。イギリス作家なのに舞台は常にアメリカに置く。そして残酷な暴力描写を作中に置く割に、作品ジャンルはあくまでヤングアダルト小説である。どこか矛盾を感じないわけにはゆかないのだが、今のヤングアダルト分野はこういう切り分けとなっているのかと改めて知らされている思い。それにヤングアダルトなんてジャンルを取っ払ってもいいほどに、どの世代が読んでものめりこめる作風である。

 あくまでキャラクターを描き分けており、その書き分けの背景にこの事件の真相を埋め込んでおくという仕掛けになっており、また全体が状況小説とでもいうような緊迫感に満ち満ちており、単発作品ならではの魅力で、シリーズ作家というレッテルから見事に脱け出したホリー・ジャクソンという稀有な才能やセンスを改めて讃えたくなるような本書は真の意味での力作であると思う。

(2025.12.21)
最終更新:2025年12月21日 12:33