迷宮
ほぼ年一冊の割合で翻訳されているマイクル・コナリー作品だが、昨年はリンカーン弁護士のシリーズ、今年はレネイ・バラードのシリーズ。どちらにもハリー・ボッシュは登場するのだが、病魔との闘いを経てますます影が薄くなり、ステージの主役を後任のヒーロー、ヒロインたちに譲っている気配は最早否めない。ボッシュはベトナムでトンネル・ネズミという名の非常に苦しい兵役を経験した末、ロスの刑事になったのだが、作者のマイクル・コナリーは1956年生まれで、実はぼくと同年齢である。
パソコン通信で冒険小説&ハードボイルドフォーラムを主宰していた頃から多くの歳月が去っていったが、今もコナリーは健在で、同年配のぼくはいつも彼と彼の作品に勇気づけられ、今を活きるエネルギーをもらっている気がしてならない。
とは言え、長年の重責を背負ってきたボッシュは主人公を下りている。作者よりも年上の設定であるから致し方ないと思うが、ナイトシフト専門の女性刑事レネイを、ボッシュの娘であり市警の夜勤警官であるマディがパートタイムで手助けするというアクロバティックな構図の中で、さらにボッシュの登場も許すなど、この作家のどのシリーズにも読者サービスは欠かされることなく、いつも好感が持てて有難い限り。
さらに本作は、実際に起こった二つの事件を取り込んでの大舞台として用意されている。一つは連邦議会議事堂襲撃事件に繋がる対テロ、もう一つは何と、稀代のサイコ殺人であるブラック・ダリア殺人事件を軸に置いた物語なので、シリーズの中でも現代アメリカ事件史に迫る重要なエポックを絡ませた警察小説という意味で、シリーズの中でも重要な一作となっており、読書の息はさらに上がる。
ボッシュの登場シーンは少ないが、代わりにレネイとマディの女子コンビのパワーみなぎる力作という意味では、読まずには死ねない重要作品であろう。2025年バリー賞最優秀長編賞受賞というのも頷ける、一気読み必須の快作と言えよう。
(2026.04.04)
最終更新:2026年04月04日 15:10