告発者
題名:告発者 上/下
原題:The Whistler (2016)
著者:
ジョン・グリシャム John Grisham
訳者:白石朗
発行:新潮文庫 2024.11.1 初版
価格:各¥900
読了当時書いていなかったレビューを、続編とも言える『判事の殺人リスト』を読み終えた時点で改めて書いている。読み終えた時点というには少し時間が経ち過ぎているが。いずれにせよこの二作はセットになった作品と言って良いのかもしれない。
主人公は、レイシー・ストールツ。現実には存在していない<司法審査会>という部署を発想したのが、本シリーズにおけるグリシャムの凄さであるかもしれない。自身、弁護士である作者ジョン・グリシャムはミシシッピ州の下院議員もつとめたとあって、現実世界との緊密な繋がりを武器に、ストーリーテリングの上手さで小説家として世界中が注目する作家となった。
映画化された初期作品群はどれも原作の秀逸さゆえに大ヒットしたもので、『
評決のとき』『ザ・ファーム』『ペリカン分署』『依頼人』『チェンバー
処刑室』などそれも劇場を満席にさせた作品群と言える。当然ぼくもすべて原作+映像化の両方を楽しませてもらったものだ。
さてそうした正攻法リーガル作品を書き続けてきたこの作家が、初めて変化球を投げ込んできたのが本作と言えよう。何年ものブランクを破ってそれもハードカバーではなく新潮文庫という形で復活してきたのが意外としか言えなかったが、ページを開くなり、一気に作品にのめりこんでしまう展開は、グリシャムのこれまでの不在を感じさせず、完全復活を感じさせてくれる秀逸なものであった。
現実には存在しない<司法審査会>という部署で活躍する調査員レイシー・ストールツがフロリダの先住民族への差別とカジノ建設という謀略に戦いを挑み叩き潰すまでの物語、と言ってしまえば単純だが、地域の独裁政治家を背景に金権と利益だけを求める巨悪に、個人の職業だけで対決してゆくその姿とプロセスに快哉を叫びたくなる力作である。但しそれなりの多大な犠牲を伴うのだが、ヒロインの心の底からの痛みを
梃子にしたストーリー構成も、見事であり、気持ちをぐいぐいと引っ張られる壮大な物語であった。
何よりもグリシャムの復活に興奮できる力作であると思う。
(2026.05.09)
最終更新:2026年05月09日 11:53