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灰の王




題名:灰の王
原題:King Of Ashes (2025)
著者:S・A・コスビー S.A.Cosbyl
訳者:加賀山卓朗
発行:ハーパーBOOKS 2026.06.25 初版
価格:¥1,639


 この作家に外れはない。『闇より深き我が祈り』から順調に作品を重ねて翻訳第6作の本書。どの作品にも共通するのは、主人公が黒人、あるいは黒人の血を引く者であること。

 アメリカの村社会や土地に今も遺る人種差別に端を発する物語が多いのだが、かと言って、そこにだけとどまるものでもない。どんな人種・民族であろうと、共鳴してくる人間ドラマを紡いでゆくという意味で、ギリシャ神話的なスケールを毎度感じさせられる結構腕っぷしの強い作家がコスビーなのである。

 本作もヴァージニアの田舎町を舞台に火葬場を営む一家と不審な死者たちの物語を長男の目線で描いてゆく、家族たちの叙事詩と言って良いと思う。神話をベースにしているわけではないだろうが、そうしたスケール感を抱かされるのがこの作家の強みだ。

 家族それぞれにつよい個性とアクセントの強弱があり、生活ぶりを観るだけでも冷や冷やした緊張が強く感じ取れるのだが、火葬場という舞台もあってか、様々な暴力要素が読者の心理を刺激してくる。

 この作家は現代アメリカを代表するノワール作家と言っても良いと思う。土臭い人間関係と、ストーリーテリングの見事さは、映画化ドラマ化されることすら拒みそうな重量感を秘めている。

 本書では主人公の推理力と判断力がストーリーの推進力となっており、家業である火葬場という点も大道具小道具に満ちた劇場的要素が散在して見える。

 骨太の家族ドラマと関わる暴力的因子としての犯罪集団の蠢き、連続する暴力事件、増えてゆく被害者たち。小さな村のような人間社会を舞台に、家族愛と暴力の軋轢を紡ぐ、本書は期待を裏切ることなきコスビーという作家の新たな傑作である。

(2026.7.26)
最終更新:2026年07月23日 12:12