ニューヨーク・クルーズにぴったりの失踪
題名:ニューヨーク・クルーズにぴったりの失踪
原題:Deadly Cruise (2018)
著者:
ドーン・ブルックス Dawn Brookes
訳者:田辺千幸
発行:創元推理文庫 2026.4.10 初版
価格:¥1,300
クルーズ船を舞台にしたコージー・シリーズの2作目は、サウサンプトンからニューヨークまでの7日間の、全編オールSea Dayの100%船上物語。
ほぼ全編が洋上で寄港地なし。ニューヨーク滞在が2日間というクルーズの旅である。途中寄港地なしで一週間船上となると旅行者の立場としてはあまり気乗りのしない旅のように個人的には思ってしまうが、本編のようにプロローグから意味ありげに示される怪しげなロシア人一行や、乗組員の失踪事件等々、意味深なスタートが、この船旅がそうそう退屈なものではないことを示してくれる。
第一作と同じ船、同じ素人探偵レイチェル&サラのコンビで描かれるクルーズ・ミステリーを読み進むと、クルーズ船というのが、寄港しない限りは、巨大な密室なのだなあ、とつくづく思う。こんな密室のなかで本来起きるべくもない失踪事件をプロットに盛り込んでしまうとは、ある意味アクロバティックと感じさせられるし、異業種から定年退職後に作家になったというドーン・ブルックスの異才ぶりには驚かされる。
巨大な密室に配置される怪しげな船客たちと、そこに居合わせる素人探偵女子コンビの推理との闘い、という構図の本書は、コージーと言うには少しスリリングで真剣味のあるミステリーに仕上がっているように思うが、クルーズ好きの読者(←自分)にとっては、今回、バックヤードが沢山描かれていることもあって、なかなかの船内冒険が楽しめるかな、と思う。
特に喫水線以下の作業用スペースまでが殺人事件の舞台として用いられるというのは新鮮味のあるところかもしれない。というわけで、クルーズ好きやクルーズ船を将来的に企画したいコージー・ミステリー読書にとっては垂涎ものの本シリーズ第二作と、作者のミステリー作家としての急成長ぶりをお楽しみ頂きたい。
(2026.8.2)
最終更新:2026年08月08日 17:06